第三十五話 最強vs最凶

 世界ランク一位である『クイーン』の登場は、レン達だけでなく、敵であるカオルにすらも驚きをもたらした。


 彼女にとっては、この世界は今いるメンバー以外は干渉できないと思っていたからだ。だが、その誤算がレン達には最高のものへと変わった。


「リン!私とレンをあの女の元へ」


「いいけど……って、女って知ってたの?」


「まぁね、『SSP』の情報網舐めないでよね」


 そう言って、メタバース空間最高機関の実力をたたえる。そして、リンは言われた通りに、ビルの屋上へと飛ばした。


「させるわけないでしょ?」


 カオルもそう簡単には近づかせてくれないらしく、残りの四獣、ドラを仕向けてくるが、ナナとルリに対処されてカオルの作戦は失敗に終わった。


「この魔獣は私達に任せて!」


 ナナが屋上へ向かったレンとシホに、力強く言う。


 その言葉を聞いて、二人は頷き、予定通りリンの『瞬間移動』で屋上へと到着した。


「二対一。できれば降伏して欲しいけど……」


 赤いドレスの女──シホがカオルに降伏宣言を言い渡すが、


「するわけないでしょ!お前達をぶっ殺して、僕は理想の世界を手に入れる」


 案の定、想定通りに終わった。


「ってことだ、コイツを倒す以外に活路はない」


「やっぱ、そうなるのね」


 シホがめんどくさそうに、自分の頭を掻きながら言葉を発する。


 レンが鞘から剣を抜き、シホも双剣あいとう──『ルージュ』を構えて戦闘準備に入る。


 二人の姿にカオルは歯を食いしばり、一歩後退。どうやら、不利になるのは目に見えているらしく、正々堂々勝負に挑むことは避けたいらしい。


 そんなカオルの事は二人には関係ない。


 本来であれば楽しくプレイするゲームだが、薫という女はそれを汚した。許すわけにはいかない。


 レンとシホがアイコンタクトを取る。その仕草だけで、相手が何をしたいのかを一瞬で見抜き、二人は同時に別方向へと散った。


 危惧するポイントは『才能殺しスキルキラー』だけであるため、スキルを無効化させないようにだけ立ち回っていく。


 まずは、レンが『侵入スラッシュ』を使用して、相手のプログラムに隙を作ろうとする。だが……カオルの地面が急に隆起して、自分の身を守る盾へと変貌していき、レンとシホは攻撃を断念する。


「くそ!あれは」


 ハクも使用してた『城壁』。しかし、それは他の誰かのユニークスキルだ。


「アイツは使えないって言ってたはず」


「それは『才能殺しスキルキラー』を持つ僕が使えないだけだ。プログラムを変えれば、使用できる。でも、スキルを無効化できないのがネックだけどね」


 今の言葉はプログラムを自在に変更できるという事になるが、ゲームマスターとしてこの世界を統べるものならば、当然の権限であるため、不思議なことではない。


 そんな単純な事すらも忘れていて、レンは自分に嫌悪感を覚えるが、今はそんな事をしている場合ではないので、気持ちを直ぐに切り替える。


「でも、彼女はスキルを無効化できないって言ったよね。なら……」


「あぁ、今がチャンスだ。それに、自由に切り替えられるって言っても、一瞬のタイムラグは発生するだろう。そこが隙になり得る」


 レンがシホの言葉を引き継ぎ、自分なりの答えを提示する。


 そして、もう一度攻撃体制に入り──二人は同時に仕掛けた。


 女社長の時でスキルの発動条件は理解している。なら、危機を察知させないように立ち回っていけばいい。


 レンにはプログラムにラグを起こさせることができる『侵入スラッシュ』が、シホにはこのゲーム内一のスピードがある。プログラムが認知する前に攻撃に移る事は、この二人であれば可能だ。


 最強の二人が同時に攻撃を仕掛ける。


 当然、プログラムも正常に機能する。二人の攻撃を謎のバリアが阻み、相手にダメージを負わせる事ができなかった。


 カオルが動く。


 先程とは違うプログラムを起動させ、自分の元にアサルトライフルを顕現させる。


 その姿を見てレンとシホは反対方向に飛び、同時にばらかれた銃弾の雨を回避する。


「チッ!」


 全てを回避され、舌打ちをしながら銃を消す。


 この隙に『クイーン』がユニークスキルで相手の懐へと一瞬で潜り込み、攻撃していく。


 『DEO』最速の異名は伊達ではなく、プログラムを凌駕していき、防御壁が間に合わない。


 そこへ、レンも攻撃に参加し、二人で元凶を追い詰めていく。だが……突如、シホの速度とレンの武器が元に戻ってしまう。


「まさか……」


「はぁ、はぁ、危なかった。プログラムを変えなきゃ、負けてたよ」


 ゲームマスターとしてではなく、矢澤薫として作り出した違法プログラム──『才能殺しスキルキラー』へと変更し、二人のスキルを無効化していく。


「やっぱ、僕じゃ勝てないね。それは痛感したよ」


 圧倒的な力に押され、カオルは自分の負けを認める。


「なら、おとなしく降参して、全てを元に戻せよ」


「それはできないね。だって、僕じゃ勝てないって言っただけでしょ?」


 意味不明な言葉を言われて、レンとシホは首を傾げた。


 カオルがプログラムを起動する。


「君たちは忘れている。この世界で一番強いのは四獣じゃない」


「何が言いたい」


「僕はこの世界の神。だから、見せてあげるよ。君達が辿り着くべきはずだった最強のモンスターを!」


 そう言って、起動スイッチを押した。すると……この場の雰囲気が一気に変わる。


 重力が変化し、今にも押しつぶされそうだ。


 そんな中でも、ゲームマスターだけは笑みを浮かべながら平然としている。そして、空が歪み、空間ができ、何かがカオルに向かって降り注がれた。


 全身黒色に支配され、人としての形は見えない。だが、人に注いではいけない何かであることは肌で感じとる事ができ、世界ランカーである二人は冷や汗を浮かべる。


 謎の現象を遠くから見ていたナナ、ルリ、リンも嫌な汗を浮かべる。しかも、恐怖も感じていて、一歩も動くことができない。それは、対峙してた魔獣も同じで……


 何かに注がれたカオルが姿を表した。


 全身には黒い鎧のようなものを纏っており、目は何かに支配されているかのように真っ赤に染まってた。


「グハハハ!これが僕の切り札だ!」


 女の声とは思えない低い声で言葉を発する。


「なんてエネルギー。私たちでもちょっと厳しいかな?」


「確かにな……」


 あれほど余裕だったレンとシホが弱気な発言をするが、それほど、目の前にいる怪物は規格外だという事。


 四獣など比べ物にならないくらいの凶悪さを誇り、下手をすれば、世界ランカー達が総攻撃しても負けるかもしれない。だが、


「勝たなきゃ、この世界を救えない!」


「そうね。やるしかなさそう」


 覚悟を決めて、二人は武器を構える。


 こうして、『DEO』最終決戦は開始された。

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