第二十五話 vsゲームマスター
天上世界。それは、それぞれの理想を反映させた世界だった。主観的に見れば幸せな場所であるが、客観的に見ればなんの意味もなさない場所だ。
今、レン達と影山
本来であれば気持ちを楽にしてくれる場所であるのに、今は険悪な雰囲気でレンは女社長と向き合っていた。
警戒心。先程の一瞬での転移に全プレイヤーの完全回復。そのことから、女社長はなんでもできると仮説を立てるのが自然だ。
ゲームマスターとしての側面を持っている彼女を前に、レンは攻めあぐねる。やることはわかっているが、なにをしてくるかわからないからだ。
緊迫する空間に押し潰されそうなレンにに比べ、ハクは今も涙を浮かべながらレンを見据えていた。
(それでも隙がねぇのか……)
完全にハクのペースに持っていかれていた。
この状態が危険だと感じたのか、レンは一歩動き出そうとしていたが……次の瞬間に白は攻撃を仕掛けてきた。
指を鳴らし、地面を隆起させる。
(おい、おい、これもユニークスキルか?)
仮説を立てていくが、もしそうだとしたら厄介だ。
空間を移動させるのも、回復もユニークスキルである可能性がある。つまり……全プレイヤーのユニークスキルが使える可能性も出てきたということだ。
完全無欠の敵を前にするレンだが、果敢に攻めていく。
相手の隙を
相手はアバターだ。なら、バーミリオンのような頑丈な皮膚は存在しない。あの敵の厄介なところは攻撃が通らなかったことだけで、本来、レンを相手にできるプレイヤーなど、このゲーム内では数が知れている。それこそ、『クイーン』や四獣、魔王ぐらいしか存在しないだろう。
変化させた銃で正確に狙いを定める。しかし……
「嘘だろ!」
今の光景にレンは思わず声を上げてしまう。
「私たちも行くよ!」
「はい!」
「うん!」
リンの声かけで今まで見ているだけのリン、ナナ、ユキも動いた。
時間切れを起こし、隆起していた土が女社長の元から崩れた。それを見逃さず、ナナがユニークスキル──『
「邪魔」
感情のこもっていない声でめんどくさそうにナナの攻撃を躱す。
「ごめん、ママ!」
次はユキが地面から氷を生成して足を凍らせていき、動きを止めた。
これで白は身動きが取れなくなった。それを狙っていたと言わんばかりにリンが愛刀──『武蔵』を抜刀し、敵の
タイミングは完璧だった。このままいけばリンたちの勝利は明白だったが……
「なに!」
「君のユニークスキル、使わせてもらったよ」
ナナのユニークスキルを自分に付与して、この世界との関係性を解除した。その隙に、別世界でユキのユニークスキルを強引に解除する。
足から血が流れ、立つのすらも厳しい状態になっているが、すぐに指を鳴らして完治させる。
「参ったな……」
どんな大型モンスターよりも厄介なものを持っている白を前に、レンは思わずため息をこぼしていた。
レンは自分の実力には自信を持っていた。だから、大型モンスターにも怯まずに進んで行けた。しかし、この女の前ではその自信すらも喪失しそうになる。
「どう攻略する?」
「正直、手がない。『
リンの言葉に悔しそうな声でレンは答える。
本来一つしか持つことのできないスキルを複数所持しているということは、多才であることを意味していた。
現実でもなんでもできるやつは厄介だ。弱点はあるだろうが、それを探るまでにかなりの時間がかかる。しかも……
「あの女に至っては重ねがけできるのが更に厄介だ」
地面を
あの地面は完全に土だった。なのに、レンの銃弾は貫通どころか傷すらもつけることができなかったのだ。このことから、あの土が鉄ほどの硬度を誇っていたと推測できる。
本来、ユニークスキルは一つで複数のことはできないようになっているため、そんなことができる方法は、別のユニークスキルを重ねがけする以外に方法はない。
「そんな……」
「私が説得してみせるよ」
「無理だ」
ユキの言葉にレンが冷酷に言い放つ。
「アイツの顔を見てみろよ。もう、息子のことしか考えてねぇ。周りが見えてねぇんだ」
「そんなことって……」
レンの言葉にユキは泣きそうな声で言葉を紡ぐ。
「冬也……戻ってきて」
レンを見ながら、悲しそうな声で呟く。
「そんなに大事だったのかよ──わかるけどよ、けど……」
あまりにも自己中心的すぎる理由で、レンは彼女の心情を頭では理解できても心では理解できなかった。
「リン!」
レンが指示を出す。言葉だけでレンの伝えたい事を理解したリンは、『
剣を大きく振りかぶり、まずは動きを止める事を最優先に攻撃していく。それでも……白が一歩後ろに下がるだけで、レンの攻撃は簡単に
スピード的にはバーミリオンに匹敵するもので、それを見たレンは歯噛みする。
「
『DEO』最強のプレイヤーである『クイーン』こと佐山志保の力だ。
圧倒的スピードを出せるユニークスキル。空気のように体を軽くでき、追い風に吹かれているような力。そのスピードは、人を遥かに凌駕し、目で追うことは困難だ。
レンは剣を銃に変換し、遠距離からの狙撃を狙う。それでも、女社長は『
敵がレンにのみに集中していく隙に、リンが一瞬で移動して背後を取る。
致命傷を与えられるであろう首を狙い、回復させてタイムラグを取らせる作戦だが……白はそれすらも読んでいた。
完全な死角なのにも関わらず、攻撃の軌道を読んでリンの突きを回避。そのままリンの腹に蹴りを入れて、吹き飛ばす。
リンがやられたが、レンは今の隙を見逃さなかった。
急いで銃を構えて発砲。銃弾が音速で飛んでいき、今からではユニークスキルを使用しても間に合わない。
一撃が確実に決まる瞬間──ハクは銃弾に気づき、手をかざした。
見事命中。だが……
「やっぱ回復させるよな」
予想通りすぎて、驚きも見せない。それどころか、
「どうすればいいのよ」
手詰まりの状態に心配する感情の方が大きくなっていた。
「あの回復が厄介だ。あれを止める……」
そうは言ったものの、レンの頭の中は不安でいっぱいだった。
あのチートを打ち破るには技術では不可能だからだ。それこそ、矢澤薫のような規格外の才能でなければ……そう思っていると、
「勝てる!」
レンの耳に力強い声が入る。その声にレンは驚かされた。なぜなら、この場を鼓舞したのは意外にもナナだったからだ。
「でも、お兄ちゃんでも攻めきれない」
「たとえそうだとしても──どんな力でも弱点はあるから、諦めちゃダメ!」
「ナナ……」
レンが口の中だけで呟く。
その言葉でレンは吹っ切れ、心を覆っていた不安は消えていく。完全には消えていないが、少しでも
「そうだな、まずはアイツのスキルを攻略する。それからだ、
レンが自分の顔を叩き、気合をいれた。
それを見て、ナナ、ユキ、リンにも覇気が戻ってくる。
だが、四人はまだ知らない。ハクが悲壮な声で、
「もう戦いたくない。だから私の元に戻ってきて……レン」
と、呟いていたことは……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます