第三十七話 最終決戦②
攻略法のないゲームなど存在しない。レンは常にそう思ってプレイしている。
彼は『最弱の王』と、一般的には嬉しくない異名が付けられているが、デメリットばかりではなかった。
スキルやステータスに恵まれないのであれば、技術を磨けばいい。運に頼れないのであれば、実力を磨く努力をしていけばいい。そうやって、常に敵やクエストを攻略する方法を考えていたのだ。
だから、暗号なんてメじゃない。今回も攻略法を見つけて絶対に突破してやると、静かな闘志を胸に宿す。
「
意味がさっぱりだ。
いや、厳密には理解できるのだが、それがどうしたという感想で終わってしまう。
要は、核が重要であると伝えたいのだろう。しかし、そんな事はこの核を用いたゲームをしているプレイヤーなら誰でもわかる。
それが暗号となっているのはちょっと無理があると思うが……
「意味がなきゃ、そんな言葉残さねぇよな」
と、呟き、思考していく。
こうしている間も漆黒の司令塔との激戦は続いている。
リンがシホの移動手段になり、最高速で攻撃を加えていっているが、カオルを
圧倒的な質量を持ったエネルギーがシホを
だが、ルリの動じない姿を見て、大丈夫だという結論を出したリンとナナは、すぐさま攻撃へと向かっていった。
リンが日本刀──『
「そもそも攻められないし、攻めれても全部吸収される」
完全に攻略不可能な敵を前に、リンは愚痴をこぼすが、
「諦めちゃいけない!必ずレン君がなんとかしてくれる。だから、私達は自分の役割を果たそう!」
この場で一番弱いナナが、低くなっていく士気を上げようと必死に声をかけていった。
その姿を見て、レンは胸が痛くなる。こんな自分を最後の希望と言ってくれる仲間達の姿に。
確かにレンは自分の実力を自負していた。誰かの役にも立つと思っていたし、VRMMOでなら絶対に負けないと思っていた。
しかし、ここまで頼ってもらえるとは思わなかった。
レンの過去は壮絶だった。リンや裕也がいたから、孤独ではなかったにしろ、前を向いて生きていける程の環境ではなかった。
現実では自分が何者なのかに苛まれ、なりたいもの、やりたい事もなかった。だから、メタバース空間に逃げ、唯一の生き甲斐を作ったが、バーチャルの世界でもレンは必要とされなかった。
誰かの役に立ちたくて強さを手に入れたのに、逆に憎まれる。
性格の悪い人間に陰口も言われ、時にはPK(プレイヤーキル)の標的になる。
仲間なんて誰ひとりいなかった。
だから、ナナが協力を求めてくれた時は嬉しかったし、心の底では初めて幸福を感じれた。そして、学校での再会。
それが最後の要となり、レンはナナに
「そんな事、今考えてもしょうがないよな」
自分の正直な気持ちを封印し、暗号に全てを集中していく。
まず、
ゲーム内の核とはHP的存在で、現実世界の命の源。つまり、全ての中心点であり、この世界を構築しているものであるのだが、
「それ以外に用途があるのか?」
レンは疑問を浮かべる。
吉良善次が娘に伝えた言葉から推測するに、プレイヤー達が知らない裏の役割が存在しているのだろう。
だが、その役割というのが、一プレイヤーでしかないレンには想像する事ができない。
一生懸命頭を使い、吉良善次が伝えたかった事を考えていくが……突如、レンの耳に大きな衝撃音が入った。
「ガハッ!」
シホがビルに背中を強打する。
世界一位のプレイヤーが赤子の様にあしらわれている。その姿を見て、レンに
早くしなければ全滅してしまう。自分のせいで仲間を失う。
「くそ!くそ!」
邪念がレンを支配していき、上手く思考ができない。故に、推理に必要な柔軟な発想ができず、行き詰まる。しかし、
「私達の心配はしなくていいから、アンタは暗号解読にだけ集中してな!」
「シホ……」
「そんな顔しないで。こう見えても、世界最強のプレイヤーなんだ。心配はいらない」
赤いドレスの女は、繕った笑顔で言い放つ。
正直、策も、力も全てを無に帰されるため困っているが、レンを心配させて攻略法をなくすのだけは絶対に避けたい。
勝ち筋の見えない敵にもう一度、最高速で接近していく。
双剣──『ルージュ』を構えて漆黒の司令塔へ刃を振るう。ユニークスキルも付与して、相手を
圧倒的な速度を誇り、どんな相手でも簡単に瞬殺できる攻めなのだが、目の前の魔物相手には全てを吸収されて通じない。
反撃が来るのを予期し、間合いを外れる。それと同時にナナが矢を放っていくが……カオルを覆っている黒いオーラに触れると、速度を無効化され、矢は地面へと落下していった。
それでも四人は諦めない。
直接の決定打にはならないだろうが、攻撃をする事で何かヒントをレンに与えられると信じて行動していく。
しかし、今まで守りの体制にいたカオルが動き出す。
全てを無に帰すオーラを手に
音速に届くスピードを誇り、それに比例して重量も加算される。しかも、それを四人分。対応が早すぎる。
ナナがユニークスキルを使用して、この世界への干渉を
理由は、カオルを
触れただけで全てを無にする力を持っている。ユニークスキルですら例外ではなく、防御不可の攻撃だ。
「逃げるしか方法がないとはね」
リンが悔しそうに呟く。
「レン、わかった?」
リンが熟考しているレンに話しかける。
「無理だ。意味がわからない」
視点を変え、ゲームの常識を覆す攻撃を頭の中で色々と試してみたが、どれも上手くいく気がしなかった。
「前提として触れられない。あの黒い奴のせいで、
突如、レンが動かしていた口を紡ぐ。
「どうしたの?」
シホが黙り込んだレンに言葉をかけた。
「ルリのスキルって、
「そうだけど、それがどうしたの?」
「なら、アイツの
レンの言葉に全員が驚きの表情を見せた。
流石の魔王でも
「『
ナナが教えてくれた言葉通りに受け取れば、どんな相手でも核を破壊する事は可能という事になる。
そして、それができるのであれば、勝つ事ができる。
「ルリ、頼めるか?」
「当然だよ!ルリの力、見くびらないでよね!」
レンの言葉にルリが意気揚々に応え、ユニークスキル──『
黒い
額、手、背中などに汗が流れているのが見えて、相当苦労する作業だとレンは思った。
「今度は俺も攻撃に参加する!」
「暗号はわかったの?」
「なんとなくな。でも……確信がない。攻めればわかる気がするんだがな」
苦笑いを浮かべながら、ナナの質問に答えた。
レンがこれから行おうとしている事は賭けに等しいもの。失敗すれば、また一から思考をしていかなければならない。
あの化け物相手に、もう一度チャンスを作るのは至難だ。このチャンスだけは、絶対に逃さないようにしなければならない。
「じゃあ、そういう事で……次はルリを守るフォーメンションでいくよ!」
『オー!』
クイーンこと、シホの声に三人が不安を払拭する気合いを見せ、激戦は更なるものへと昇華されていった。
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