第十九話 クエスト攻略開始
社長の場所へと向かうためにクエスト攻略を開始した一行は、次なる目的地ーー南極エリアに向かっていた。
クエストの難易度は星二。内容は雪熊という大型モンスターの討伐で、そこまで難しくはない。だが、
「本来のクエスト通りならね」
唯一の懸念点をユキが述べる。
このゲームは今、矢澤薫というプレイヤーの手中に落ちている。彼が別のプログラムを構築していれば、このクエストの難易度も上がっている可能性がある。
そうなれば、星二と高を括っていては、足を掬われて全滅してもおかしくない。
「それにしても、何もないな」
「まぁ、南極ですし……」
標的だけでなく、他のモンスターも見当たらず、ただ真っ白な世界が視界一面に広がる。
既にクエストは開始しているので、いきなり敵が出てきたとしてもおかしくなく、四人は常に周りを確認する。
「それにしても寒いですね」
「あぁ、ここまでリアルにしなくてもいいんじゃないかって思うよ」
氷点下十度の世界を歩き、レンが愚痴を溢す。
教会でクエストを受注した四人は、場所を確認してから商店で防寒着を購入した。それでも、この凍えるような寒さはレン達の体温を急速に奪っていく。吹雪いていないだけ幸いといえるのだろうが、こんな極寒の地になど望んで来たいとは思わない。
一行は目的のために白い世界のみ広がる世界を進んで行く。しかし……
「あれ?この先フィールド外ですよ」
「嘘でしょ!間違ってたって事?」
「いや、それはないはずだ。って事は……」
「異常でも発生したんでしょうね」
焦るリンとナナを前に、レンとユキは至って冷静に物事を捉える。
本来いるはずのモンスターがいない。現実と同じ感覚を得られると言ってもレン達がやっているのはゲームなので、全てがプログラムで管理されている。
モンスター討伐のクエストで討伐対象がいないとなれば、それはゲームの根幹から破綻している事になる。が、それ以前にこんな広大な場所に小型の生物一匹いないのは正常とは言えない。
「これも矢澤に書き換えられた結果か」
「でしょうね」
このゲームを裏から操っている首謀者。おそらく、『天上世界』絡みだろうが、何が目的か一切わからない。
こうなってしまっては、いつ敵が出てくるかわからないため、レンはもう一度探索する事を三人に提案する。レンの提案に首を縦に振り、四人は半々に別れて捜索を始めた。
南西側をリンとユキ、東北側をレンとナナで担当する事にし、見つけたら通話で連絡を取る事にした。
「どこだ……」
カオルはレンを危険視している。一度レンは敗亡しているが、あの結果は偶然が招いたものでしかない。本来であれば苦戦する事なく、勝利する事ができていた。
だから、不意打ちを狙ってくる可能性が高かった。しかも、自分が直接手を下すのではなく、クエストで敗北したかのように見せかける方法で。
二人は慎重になり、辺りを見渡していく。
「ウォォォォ!」
レンの後ろから大きな鳴き声が聞こえ、自分へとかかる重力が一気に変化する。
「ナナ!」
「了解です!」
咄嗟の出来事にも対応し、獣めがけて矢を放つ。すると、ユニークスキルが発揮され、獣にバリアが付属された。しかし、これは小さな別空間を構築するもののため、獣の攻撃はレン達には届かなくなる。
この隙を突いて、レン達は距離を取る。
襲ってきたモンスターが隔離された小さな場所に爪を立てて攻撃している。
「コイツが雪熊……」
ヒグマのような見た目をしているが、全身を覆っている体毛は白い。しかも、口の周りに雪のようなモコモコした白髭が生えており、見た目からつけられた名前なのだと推測が簡単にできる。
ナナがメニューを開き、通話機能を起動する。他の二人への報告だ。その間にユニークスキル──『
敵から襲ってきたのだが、攻撃された事に怒りを表しているようだ。
見た目からは想像もできない速度でユニークスキルの持ち主──ナナの元へと向かっていくが、敵の図体をレンが剣の
(重い……)
人間の何倍もの重量を持つ体を支えるのはかなり負担がかかる。いつまでも支えているのは厳しく、押し潰されそうになるが……ナナが矢をレンに
「すまねぇ」
「気をつけてください」
「あぁ」
干渉されないレンが『
その間に雪熊は無防備のナナを狙うが、既に矢を装填していたため、もう一度放つ。
ナナの矢が足に刺さり、雪熊の動きが鈍った。その隙を突き、ナナは突進を横に飛び回避。それと同時にレンがこの世界に干渉する権利を取り戻し、変換していた銃で撃ち抜く。
反対の左足に命中し、雪熊の動きが止まり、その場に倒れ込んだ。
倒れている雪熊にレンは近づいていく。武器を銃から剣に変更し、
「ミッションコンプリートだな」
不意打ちにはびっくりしたが、所詮は星二クエストのモンスターだ。世界レベルのレンにとっては朝飯前で、退屈しのぎにすらならなかった。
倒れているモンスターが息を荒くし、こちらを見ている。
自分がこれから死ぬのだと本能的に悟っているのか、恐怖の表情が表に現れているのがわかる。
しかし、レンにとっては関係のないこと。剣を
「ウォォォ!」
雪熊が最後の断末魔を上げ、体が徐々に薄くなっていく。そして……粉雪のように宙に舞っていった。
ミッションコンプリートの文字が目の前に表示され、レンとナナは最初の星二キークエストを攻略したのだった。
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