第八話 決着

 緊迫した空気が空間を支配する。


 三人がいる場所だけがこの世界から切り離されたかのように感じ、一秒、一秒がやけに長い。


 硬直状態が続いていくが、それを最初に解いたのは意外にもユニークスキルを持たないレンだ。


 熟練の剣捌けんさばききだけで場を解決しようとしたのだ。しかし、相手は世界ランク五位の人間。そう簡単にはいかず、持っていた銃で反撃された。


 鈍い感触がレンの腹部に込み上げる。痛みはないが、内臓を直に触られているかのような気持ち悪さがあり、吐き気をもよおした。


 動きが止まった隙を突かれ、レンはコアを攻撃されそうになる。それを一歩早く、クイーンが阻止して、なんとか大事は逃れられた。


「決定打がない」


 クイーンの隣に並んだレンが不安を口にする。それはクイーン自身も感じていたことだった。


 彼女のユニークスキルは完全に奇襲向けだ。それに加え、レンの力は戦闘中には発動できない。


 しかし、相手は決定打にも期待できるスキルの持ち主だ。だから、成す術はないと思われたが……


「間合いにさえ入れれば、仕留められる」


 クイーンが提案してきた。それにレンは問う。


「できるのか?」


「私はゲーム内で一番のスピードの持ち主よ。それくらい朝飯前だわ」


「わかった。俺が奴を足止めする」


 とりあえずの作戦が決まり、レンは動き出した。


 『コンティニュー』があるため、遠慮なく前に出ることができる。これが、ゲームの性能全てを利用するレンの戦い方だ。


 捨て身の行動にスコーピオンは不意を突かれるが、そんな間はたったの数秒。すぐに切り替えて攻撃に移った。


 銃を二丁構え、連続で発射してくるが、レンは銃弾の軌道を完全に読み、華麗な剣捌けんさばききで全てを撃ち落とした。


 その離れ業にスコーピオンも驚愕するが……


「俺の本骨頂はこっちだよ」


 至近距離でライフルを構え、確実に仕留めるためにユニークスキルを使用した。


 彼のユニークスキルは、『照準合わせアシスト』。銃を構えた時のブレや、発砲した時の反動を軽減する力だ。


 彼の元々の銃の技術と合わさることによって、命中率九十五パーセントという、怪物並みの力を発揮し、狙いを定められた者は高確率でコアを撃ち抜かれる。


 この力のデメリットは狙撃用の銃でなければ、力を発揮できないということ。その点を除けば、間違いなくトップクラスのユニークスキルになる。


 スコーピオンの本領が発揮された。だが、レンは恐れない。


 もし、撃ち抜かれた時しても、やり直して奇襲を仕掛ければいいからだ。卑怯かもしれないが、この方法が『コンティニュー』を最大限に生かすことのできる使い道だ。


 スコーピオンがトリガーを引く。それが見えた途端、全ての思考を放棄し、次へと望みをかけた。だが……銃弾はレンのコアどころか、体にすらも当たらずに大きくそれた。


(外したのか)


 今まで見せていないレンのユニークスキルを恐れて外したと思ったが、それは間違いだ。スコーピオンは最初からレンを狙っていなかった。彼の狙いは……


「テメェだよ!クイーン」


「でしょうね」


「なに!」


 スコーピオンの考えすらも予測しており、クイーンは簡単に攻撃に対処してみせた。そして……


 圧倒的なスピードでスコーピオンの間合いに入り、あごに蹴りを入れる。


「テメェ!」


 怒りに任せてハンドガンを発砲するが、クイーンのスピードの前には音速の銃弾ですら、亀ほどのスピードにしか感じない。故に簡単に対処できる。


 もう一度、間合いに入り、スコーピオンに強烈な拳を突きつける。


「強ぇ……」


 世界ランク一位の実力をまじかに見せられて、レンは思わず声を漏らす。


 自分のような努力の天才ではなく、本来のゲームシステムを利用した天才。それがクイーンというプレイヤー。全てを魅了する者。まさしく女王。


 その姿に呆気に取られるレンだが、数秒経ち、彼女の助太刀に入ろうと動き出す。


 『コンティニュー』も計算に入れ、果敢かかんに迫っていく。


 レンの姿を目の端に捉えたスコーピオンは、歯を食いしばった。そして、二人から距離を取り、両手にハンドガンを構えた。


 ユニークスキルは使えないが、コアを撃ち抜くだけなら、これだけで十分だとスコーピオンは踏んでいる。


 一丁はレンを、一丁はクイーンに狙いを定めて発砲していく。


 『疾風』を駆使して、クイーンは銃弾を回避できたが……レンは対処に遅れたため、直撃した。そして、コアを破壊されその場に倒れた。


「『最弱の王』!」


「隙あり!よそ見厳禁だぜ!」


 仕留めきれなかったクイーンにもう一度狙いを定めて、発砲した。だが……先にトリガーを引いたスコーピオンより速く、一瞬で間合いを詰めた。そして、スコーピオン殴り飛ばし、彼にまたがる。


「おい!コアを壊すなんていうんじゃないだろうな」


 追い詰められたスコーピオンがみっともない命乞いをする。


「そのまさかよ。多少の犠牲はあったけど、とりあえず恐怖は排除できる」


「待てよ!おかしいだろ?プレイヤーキルなんて」


「自分が助かることで精一杯で、言ってることが支離滅裂してるぞ」


 みっともない行為を晒けだしているスコーピオンに、呆れ口調で言葉を発する。


「『最弱の王……』」


 確実に仕留めたはずの男が目の前にいて、スコーピオンは恐怖する。


「あぁ、これが俺のユニークスキルね。『コンティニュー』なんだけど……正直、お前らどう思う?」


 最弱の力を手に入れた事を世界ランクのプレイヤーに問うてみる。


 反応は薄い。どうやら、二人共この力を強いとは思っていないようだ。


 現に、レン自身も同じ答えだった。


 敗北しないと使えない力で、戦いの最中ではなんの役にも立たない。だが、もしもの時の保険として使える点では、どの力もバカにできないなと思う。


「こいつどうする?」


 スコーピオンの処遇をどうするかをクイーンに問う。


「運営に代わって私が天罰を下します」


「何をする気だ?」


「こいつのコアを壊す。それだけよ」


「そうか……それで、コイツにやられたプレイヤーの採算さいさんがつくかだけどな」


 レンもクイーンの意見に賛成だ。肝心なのはこのスコーピオンひとりで、しくも敗北したプレイヤーの分をつぐなえるかだ。


「償えるでしょ。少なくともこの男は私たちに情報をくれた。あとは、その情報を頼りに敗北したプレイヤーにもネット上にログインできる権利を返してあげるだけよ」


「そうか」


 レン的には満足したようで、会話は終わった。


「嫌だ!嫌だ、嫌だ、嫌だ!」


 またがっているクイーンに持っている銃弾を連射していくが、照準が上手く定まらず一発も当たらない。


 弾が切れたので、涙を流しながら、リロードしようとするが……天上世界へと行けなくなる恐怖で手が震え、弾を全て床に落とした。


「じゃあ、また今度ね。全てが終わった時、また楽しくゲームしましょ」


 そう言って、残酷に、スコーピオンのコアを双剣で破壊した。


 これにより、ネット上から世界ランク五位の人間は完全に消失したのだった。

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