第三話 乱入クエスト

『コンティニュー?』


 そんな画面が視界に映り、蓮は自分がゲームオーバーになったのだと理解した。


 カウントが十から始まり、ゼロへと向かっていっている。


 この機会を逃せば、レンはゲームから退場させられ、このゲームに二度と挑戦することはできなくなってしまう。


 そんなことは絶対にしたくない。それに、蓮にとって、このスキルは唯一無二の頼れるものだ。だから、このチャンスを無駄にするということはない。


 カウントが進んでいく。


 もう五秒前まで迫っている。


 四秒、三秒。そこで蓮は『はい』を選択して、ゲームへと復活を遂げたのだった。




「レン……嘘でしょ?」


 自分を庇い、ゲームオーバーになってしまった蓮をナナは愕然がくぜんとしながら見ていた。目の前の獣には目もくれない。ただ、どうしようもないこの状況に固まるしかできなかった。


 レンはの見立てでは、ナナは超新星と言ってもいいだろう。しかし、ナナはこの獣には勝てないと思っている。なぜなら、技術はあっても経験が足りないからだ。


 だから、呆気に取られて身動きが取れない今の状態に陥っている。


「ボロロォォ」


 獣の本能で次はナナを倒しにくる。


 ゲームシステム的にも核を狙ってくるのは明白だ。そして、今の動揺しているナナであれば、一撃で核を破壊され、ゲームオーバー。ここで夢は潰える。


 ナナは目を瞑り、この状況から目を逸らした。その時に、心の中で両親に「ごめんなさい」と一言謝った。しかし……レンが獣の核に剣を突き刺し、ピンチを救う。


「まだだ!」


 レンが叫び、ナナを掴みながら後退する。


「なんで?」


 その言葉はレンが復活したことに言ったものでもあるが、目の前の異常光景につい口から出ていたものでもあった。


 核が壊れていないのだ。確かに的確に仕留めたはずなのに。


「やっぱ、壊せないようになってたか」


 まるで、知っていたかのようにレンは言う。


「どう言うこと?」


「これは乱入クエストだ。そして、アイツは『DEO』最強の魔獣──ボロ」


「えっ!えっ!」


 話についていけないナナは慌てふためく。それに、細く説明をするようにレンは言葉を紡いだ。


「このゲームには四獣っていう魔王の契約獣がいるんだが、その一角がアイツだ。ってことは、あの洞窟は魔王の巣窟ってわけか」


 イノーたちは少し遅かったみたいだが、プレイヤーからしたら厄介なことに巻き込まれて最悪だ。


「でも、核は撃ち抜いたはず。なんで死なないのよ」


 その意見は至極真っ当だった。それでも、奴は例外の範疇はんちゅうにいる。それが、ナナには理解できない。でも、例外は今までも中でも一箇所だけ二人は見ていたのだ。


 それは、あの洞窟の謎の鎖。あれは専用アイテムが必要だった。つまり……


「こいつも専用アイテム、もしくは専用の武器ががなけりゃ倒せないか。折角、隙をついて一撃で倒そうと思ったのによ」


 『コンティニュー』にはそういった使い方もできる。


 今までのゲーム経験から、特殊条件を満たさないと倒せない敵も存在したから、探りを入れたのだが、正解だったらしい。


 それがわかった今、二人がやらなければならないことはひとつしかない。それは……


「隙をついて逃げるぞ。いいな!」


「えぇ……」


 レンの意外な発言で、少し不意を突かれて返答が遅れてしまった。


 方針が決まればレンの行動は早い。


 『コンティニュー』がある自分が敵に突進していく。その方が百パーセント安全だから。


 まず、剣を振り、足の動きを止めようとするが、獣の動きが早すぎて、一歩後退を余儀なくされる。


 相手のコアをしっかりと見据えていく。


 コアは現実での心臓だ。だから、全ての生き物が現実と同じ位置に内蔵されている。それを、全てのプレイヤーは特別な目で見ることが可能なのだ。



 しかし、見るだけだ。どうせ壊せない場所を攻撃しても無意味なことに終わることはわかっている。


 だが、核を守るようにプログラミングされているゲームだからこそ、その方法が生きてくる。


 しっかりと見据えながら……狙いはやはり足。


 先程の攻撃であの獣の速さはわかった。


 レンがどれだけ速く動いても、あの獣には速さで勝てないだろう。でも、剣は振るって相手を斬る意外にも攻撃できる。一度だけの諸刃の剣だが……


「ここだ!」


 持っていた剣を投げ、その勢いで足に突き刺さるようにする。その行為に、ナナは驚愕した。だって、剣は斬る。そうプログラミングされているから、その通りにしか動かせないと思ったからだ。


「プログラミングとは言ったが、現実の世界と同じことができるようにだがな」


 吐き台詞のようにレンが述べる。その後、剣が足に突き刺さり、大量出血した。


 それを見て、ナナと共にこの場を離れようとする。でも、獣も逃すつもりはないらしい。すぐに立ち上がり、レンたちに攻撃を仕掛けてきた。


 レンの足が擦り切れ、動きが鈍った。


 どうやらまだまだ攻撃が必要だったらしい。それを見て、レンは歯噛みし、言葉を吐き捨てる。


「さすが、最強の魔獣」


 悔しいが、賭けに負けた。自分が囮になって、ナナだけを守る選択を取ることにしよう。そんな時、ナナがレンを矢で穿うがった。


 その行為に理解が追いつかなかったが、次第にレンが何かに包まれていく。


「これって……」


「私のユニークスキルです。確か、攻撃を当てたものにバリアを付随するとか」


「攻撃を当てたもの?」


 レンはバリアという効果ではなく、攻撃を当てたものという単語に引っかかった。


 その言葉通りなら、敵にも効果を付随させてしまうからだ。その時、レンの頭が稲妻のような衝撃に襲われ、ある考えが浮かんできた。


「俺がもう一度突進する。だから、矢でアイツを穿うがて」


「でも、そうしたら……」


「いいから!」


 あまりにも強い言葉で言ってしまい、ナナはうろたえていた。それには「ごめん」と、一言謝り、作戦を続行することにする。


 自分を囲っているものが解除される。


 それと同時にレンは突進した。


 武器はない。だが、問題ない。目的はあくまで自分に注意を逸らすだけだから。


 獣が爪を立て、レンめがけて振るってくる。それを、軌道をよんで回避。もう一度、同じ行動をしてくるがそれも回避だ。


 やはり、獣なだけあって、パワーやスピードはあるが、攻撃方法が単調だ。そのため、一度見切れば、簡単に対処できる。


 ナナの方を見て、矢を打つ準備が整うのが見えた。だが、まだダメだ。今の距離では熟練の弓矢使いでなければ当てるのは難しい。 


 せめて、あと一、二メートル接近させる。


 後ろを確認しながら後退して、獣を誘導する。人間であれば、こんな方法は賢いとは言えないだろう。でも、今は有効。だからやるのだ。


 あと一メートル。そこまで下がれば矢を放てる。だから、後退し……


「いまだ!……」


 そこ言葉の後に、レンの目の前には『コンティニュー?』の文字が映ったのだった。

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