第十七話 選ばれた理由

 最強の一角を倒した一行は、下山して街へと戻ってきた。


 その際にたくさん話が交わされたのだが、肝心の『才能殺しスキルキラー』の内容は話される事はなかった。レンが忘れていたわけではない。他の人達が楽しい会話で盛り上がったため、その中に入る事ができなかったのだ。


「あのー、俺から大事な話があるんだけど」


 手を上げてレンが発言し、それにこの場にいた全員が反応する。


「どうした?」


 その中のリンがレンの声色の変化を見抜き、真剣な声で語りかける。


 リンの変化を一瞬で見抜いたレンは、一度深呼吸。そして……


「俺って一度敗北して復活したんだよね」


 その言葉で仲間たちが全員驚きを見せるが、当然の反応だった。しかし、復活した事はそこまで大したことではない。一番肝心なの事は……


「矢澤薫というプレイヤーに気をつけてほしい」


 レンをゲームオーバーにしたスキルキラーだ。


 あの人物のユニークスキルはおそらく、ユニークスキルを無効化するもの。確証はないし、本人に確認したことではないため、予想の範疇でしかないが、まず、間違いないとレンは踏んでいる。


「わかったよ、お兄ちゃん」


「了解、了解」


「わかりました」


 急な話だったのだが、皆、直ぐに了承してくれて、レン的にもホッとする。


 一通りの会話が終わった四人は教会の中に入る。


 無事、星一のキークエストを全てクリアした四人は、受付のお姉さんに昇格してもらう。これにより、星二のクエストも受注することができるようになる。


「完了しました。これからも頑張ってくださいね」


 受付の女性にそう言われた後、メニュー画面を開いた。ギルドカードが白色から黄色に変わっていた。


「わかりやすくていいですね」


 成長が目に見えるようになっているのは、かなり良心的だと思う。


 ギルドカードは色によって、ランクが変わってくる。下から白、黄、黄緑、ピンク、水色、橙、赤、青、緑、黒と変わっていき、黒色のギルドカードを持っている人は、特別な資格を持っているのだが、それが『スコーピオン』の言っていた『天上世界』だ。


 到達した者の理想が全て叶う夢の世界。誰もが憧れる桃源郷だが、ここにいる四人はそんな世界に興味はない。唯一、理想を掲げるとすれば、ただ楽しくゲームをしたいという純粋な感情だけだ。


「まだクエスト行く?それともお開きにする?」


 リンが提案する。しかし……


「悪い、俺は別行動するよ」


 レンが急な発言をする。


「どうして」


「そうだよ、お兄ちゃん」


「どうしたんですか?」


 レンの発言に三人が問い詰めるが、レンは「悪い」とだけ言って、教会を後にした。


(矢澤……アイツだけは許せねぇ)


 ユキに付き合わされて忘れていたが、レンはマキの仇を討とうと画策していた。無意味な行為かもしれない。馬鹿げているのは百も承知。でも、あんなに楽しそうにゲームをしていた彼女の笑顔を壊した。それに……


「このゲームを正規のルートでクリアしても、誰の願いも叶わない。だから……」


「やっとわかったみたいだね」


 後ろから声をかけられた。声のトーンこそは違ったが、声色は甲高く知っているものだった。その声に振り返り、レンはそこにいた人物に驚き、息を呑む。


「ユキ……」


「お兄ちゃん……いや、レン君は気付くのが遅いんだよ」


「呼び直したな。ってことは、今までのは演技か」


 レンの言葉にユキは無言で頷く。


「お前は俺に近づいて何がしたいんだよ」


 レンが心の中を感情のままに暴露する。


「レン君を助けたいんだよ。それに、ナナちゃんのお父さんやさっき敗北したマキって女の子……それ以前に、敗北した全てのプレイヤーを」


「どういうことだ?」


 話が全然見えない。それどころか、なぜそんな大ごとにまで発展するのかがレンには不思議だった。だが、その疑問はユキの次の発言で解消することになる。


「このゲームで核を破壊された者は昏睡状態になるの。ナナちゃんのお父さんもこのゲームで核を破壊された」


 深刻に宣言するユキの言葉にレンは驚愕する。だが、それと同時にある考えが脳裏によぎった。


 なぜ、自分は昏睡状態にならなかったのか。『コンティニュー』の件と言い、レンという人物は何かと特別扱いされ続けている。その事をユキに質問する。


「それは、社長にとって君が特別な存在だからだよ」


「そこが理解できないんだよ。なんで俺なんだ。他にもたくさん人はいるだろ」


「君は、社長が社長である前に、一人の親だという事を知ってる?」


「なんだよそれ……」


 急な話の脱線。だが、ユキはこの話が今回の件に深く関わっていると、真剣な眼差しで訴えてくる。その視線にレンはやられ、話の続きを促した。


「社長の名は影山はく。この名前は公になってるから知ってるよね」


「あぁ、女社長だったのは驚きだったよ。だから、それがなんの関係が」


 話が全く見えてこない。社長が親だろうが、女だろうが、なんの接点もないレンを特別にする理由がわからないし、そんな事をする義理はないはずだ。


「ここからは、社長の過去の話を聞いてもらいたい。それが、君が彼女にとって特別である事に繋がるから」


「あぁ」


 今のままでは話が見えてこないので、レン的にもモヤモヤが残る。そのために、仕方なく話を聞く選択を取る。


「社長には息子がいた。だけど、その息子は四年前に交通事故で他界。それがきっかけで私達家族は分裂した」


「ちょっと待て!」


「どうしたの?」


「私達家族って……お前、社長の娘なのか」


 急なぶっ込み。それに、レンは話を中断させてしまった。


 急な割り込みに「うん」と一言だけ答えて、ユキは話を続けていく。


「パパはママと離婚。私とママは一緒に暮らしてるけど……もう一年近く喋ってないかな」


 ユキは暗い表情で話を続ける。


「ママは精神的におかしくなっていった。もう、壊れそうだった。側から見てもそれはわかるほどで……でも、ある日、急にママは生き生きしだしたんだよね。確か……四年前の十月十日だったと思う」


「四年前の十月十日だと……」


 告げられた日時にレンは驚いた。その日は絶対に忘れない。いや、忘れられるわけがないのだ。だって……レンの誕生日で、その上、シャドーのゲームを初めて手に取った日なのだから。


「俺がゲームを始めた日と、社長が元気を取り戻した日が一緒。これにはワケがあるのか?」


「うん、ここからが本題。だって、君は……社長の息子と瓜二つの外見をしてるんだから」

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