第14話 裏垢女子の身バレ時の心情を、10文字以内で記載しなさい
――あー……なる。だから、女の子同士でキスしてたんすね
「あ、だいじょーぶっすよ。かわいーに貴賤はないですから」
爆弾発言に続けて、誘爆をくり返すその女の子をなんとかしようと思って。
手を引いて多目的トイレに連れ込む。
(どうせ、順番待ちでここに入る予定だっただろうし……)
とか言い訳してみる。
「ごめんね!! ちょっと、二人で話しよ? ね? ね?」
「いいですけど……。なんていうのかな。すごく大胆な方ですね」
飄々とした感じで、喋るその少女の気持ちはよくわからない。だから……とりあえず、人前で話されると困るので連れ込んだけど。
これって、俺もしかしてかなりまずいことしてるの、かな?
あ、でもいちおーいま『有栖』だし……。
バイト少女が俺を……有栖のことを見る。
じーっと。ただじーっと、その感情はわからないけど、なぜか観察されてる。
いや、あんまり見ないでほしい。
顔を覚えてあとで通報とかほんと、困るし。
カチャリ。
「え……な、なに」
(なんで、眼鏡までとられたし……え、なにこれ怖い)
「あ、やっぱり。有栖センパイじゃないっすか」
(有栖? センパイ? え、どういうこと。有栖のこと知ってる人なんて……)
アプリで裏垢知ってる人しかいないじゃん。
「トワイライト……やってるの?」
その一言を辛うじて絞り出すように口にした俺に、僅かばかり笑みを浮かべた少女は、そのみずからの黒髪に手を伸ばし。
そしてウィッグをはずした。
中に入れ込んでいた髪の色は明るい桜色で。
たしかにそのままでバイトができないのがわかるような派手さで。
そして(なぜか)彼女は着ているシャツのボタンを上から外し始めた。
「え。ちょっと。なにしてんの?」
「……んー、これだったらわかるかなーって」
上から三つ目のボタンまで外した彼女の胸は、それまでのイメージよりかなり大きく。ちらっとという具合ではない感じでピンク色の下着も見えている。
「あ……」
張りのある、白い素肌。
左の鎖骨下に見えるホクロ。
なにをしてるの……? と思う気持ちと、同時にどこか既視感があった。
両手を胸の下で組むようにして。そうすることで胸が強調される……。
そのポーズで確信した。
「チェシャちゃん?」
顔を絶対に見せない裏垢女子だったけど。その胸のサイズと桜色の髪色が特徴で。
決まって同じ構図の子。
ようするに谷間を見せる子。
それがトワイライトで裏垢女子をしている『チェシャ猫』というアカウントの女の子。
有栖にとっては数少ない相互フォロワー。
「会えてうれしーっす、有栖センパイ。先日は素っ気ない態度で、すみませんでした」
「……あ、ううん……助けてくれたし。あの、えっと。男ってことは……」
「あ。ぜんぜん大丈夫です。ネットってすぐ加工とかで
「……? あ。そう?」
「そうですよ」
「でも、さっきからセンパイって……たぶん垢の情報に間違えなかったら、同じ高一じゃなかったっけ」
「だってチェシャが始めたときにはもう、バズってたの有栖さんだったので。つまり、そうセンパイじゃないですか」
「あ、そういうこと」
「そーいうことっすよ。あ、そろそろバイト行かなきゃ、てんちょーに顔合わせたくない……だるい」
急にテンションをがた落ちさせたチェシャちゃんは、カバンを漁りだす。
どうやらバイトの制服に着替えるのだろう。
ということは、さすがに俺は、ここを出ないと。
「あ。えっとごめんね。わたし、先に出るね」
「あ。いいっすよ。見てても。気にしないっすから」
「わたしが、気にするの!!」
(……心臓に悪い……あとシロちゃんに悪い気がする)
俺はここから立ち去ろうとドアの鍵に手をかけた。
「あ。有栖センパイ。またDMしますね、アプリでもリアルでも絡んでくれるとうれしーので」
そのときのあまりに自然なチェシャちゃんの言葉は、『有栖』の心にあまりにもストレートに響いた。
振り返るのは
だって、泣きそうだったから。
シロちゃんだけじゃなくて、本当の有栖のことを知っても受け入れてくれるような友達がトワイライトにいるってことが嬉しいとおもったから。
「うん。チェシャちゃん。じゃあ、またね」
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