第32話 裏垢女子のその裏は表でしょうか。
教室の机に座って、のんびりとした時間を過ごす。
後ろには仲田さん(というか、シロちゃん)。
あわただしい週末が終われば、当たり前のような日常が戻ってきた。
春が来たと思えば、もう夏で。
高校生活最初の夏を、彼女と一緒に迎えられる。
そんな、素敵な学園生活なわけで。
それだけをとって考えれば、窓から吹き込む風が心地良く感じる。
「てか……頭が軽い」
そう、ウィッグをしていないから、すっごく頭が軽くて、風通しがいい。
(こんな生活続けてたら、早いうちに禿そうだよ……ウィッグ蒸れるし)
スマホのインカメラを鏡がわりにして、自分を映す。
どこにでもいそうな、青年。
童顔で、小顔。
中性的と言われるけど、いわゆる女顔だ。
でもだからって可愛いか、というと普通で、たぶん普通だからこそ化粧映えするんだよなぁ……。ときどき俺自身、新見旬と有栖は別の人間なんじゃないかって思うくらいには。化けるもので――。
――優越感があった? ふふ、ないわけないよね。だって、根底には誰でもいいから自分を認めてほしいって言う承認欲求があるんだもの。
「あれって、俺が言ったんだよなぁ……」
ちらっと教室の前列、右端の席を見る。塩野目さんがいる。
彼女もまた、眼鏡をかけた大人しい女の子って感じで。あのときの関西弁の少女とは少し違って見える。
「なーに、物思いにふけってんの?」
「……後ろからそーっと近づくの禁止」
「なによ~後ろの席なんだから仕方ないじゃない」
耳元に、彼女の吐息がかかる。
――学校だと素っ気ないのね。有栖ちゃん。
(……シロちゃん!)
「……で、要件は?」
「ほんとに冷たい……。あのね、じつは筋肉マンからなんだけど」
「誰のことだよ」
「あ、ごめん。市河くんからなんだけど、昨日LINEがあって、U〇Jに皆で行かないかって」
「……えぇ、それ市河たちには内緒だったよね、榊にも言わなかったし」
「あ、私は言ってないよ! たぶんね、市河くんなりに色々考えた結果、あらら被っちゃった! って感じだと思うよ」
まぁ……たしかに遊園地に行きたいとか言ったしね、シロちゃん。
ついでに有栖も言わされたけど。
福岡には大型のテーマパークってのもあまりないから、上に行くか、下に行くか。ってことになるわけで……。
そうなると比較的足を運びやすいのは、大阪にあるU〇Jってことになる。
「で、どうしたい?」
「……へ?」
「いや、だから一緒にまとめてのほうがいいでしょ? 私は何回でも行きたいくらいだけど、旅費のこともあるし?」
「だよな。まぁ、いいんじゃないかな。どうせ市河と、榊だろ? 榊はもう知ってるしさ」
結局は榊が好きな相手がチェシャちゃんなのか……有栖なのかは聞きそびれてしまったし。塩野目さんの気持ちを考えると、あんまり二人を近づけるのは良くないのかもしれないけど。
榊は俺のことをわかって、理解してくれているし。
まぁ、そういう点ではいいのかなと思う。
市河には、さすがに言えないけどなぁ。
「新見くん。知ってるって、なんのこと?」
「……へ?」
「あ! 汐里ぃ! こんな教室の奥までくるの珍しいじゃん。どうしたの!」
ええ。さっきまで前の席にいたじゃん。
気づいたら、俺の席のところまで塩野目さんが来ていた。
「……仲田詩帆。あんたが昨日LINEでいっとったんやん。渡したいものあるから~って。ちゅうか、教室で呼び捨てやめてーや」
「……LINEではオッケーって言ってたし?」
「は、恥ずかしいから!」
その声の大きさに周りがざわつく。
――あれ? 塩野目さんって関西弁だったんだ? とか。仲田さんと仲いいんだ? とか。そんな言葉が飛び交う。
当然、なんで新見の席のまえ? っていうのも聞こえてくる。
なんで、俺の席の前で女子ふたりが言い争ってんだよ……。
目立ちすぎて困る。
<……なんかほんまに目立ってきとるやんか。はよ要件教えてや>
塩野目さんがシロちゃんと俺にだけ聞こえるように小声で言う。
「これ! チケット! 杵築さんからだから。一緒にいくわよ」
「なんやのこれ……? え。あー。U〇J? うちの実家ん近くやん」
だから、声でかいって。
ほら。誰かこっち近づいてきただろ……。て、市河かよ。
「……お。仲田さんさっそく俺の提案にのってくれたんだな!! 塩野目さんも誘ってくれたのか、人多い方がいいし! ありがとう。じゃあ……あとは有栖さんにLINEして……と。なあ、元サッカー部。お前も行くよな大阪」
まあ……塩野目さんの実家の近くってのも気になるし……U〇Jにはいきたいけど。
って、行けるわけねーだろ。
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