第29話 裏垢女子にも五分のたましい、があるんっスけど。

 まさか、バスで移動するなんてね。

 有栖ちゃんと榊くんを追って、同じ市営バスに乗り込む。加恋と一緒に後ろの座席から二人をマークする。

 乗り込むときに結構スレスレの位置まで近づいたが、どうやらバレてはないみたいだった。


「なんか、探偵みたいでドキドキするね」

「うんうん。詩帆っていつもこういうことしてるの?」

「まさかー。たまによ」

「そういえば、なんで加恋、髪の色黒くしたの?」

「んー、もともと明るくしてたのは……旬と区別つけようとしてだしね。加恋は加恋らしいほうがいいかなって」

「そういうことね。似合ってるし、いいと思うわ」


 バスは街中を外れて、百道浜の前まで来ていた。


「あ、ここで降りるみたいよ加恋」

「へー。意外にもちゃんとしたデートコース的なとこで」


 あたかも目的地に着いたかのように、バスを下車し。2人をつけていく。

 そこからは見ていてハラハラした。


 いや、なんか古い言い方だけど。うん。ほかに思いつかないので。


「え、お姉ちゃん泣いてない?」

「泣いてるね……あの陰キャなに言ったの……てか、渡してるティッシュの絵柄ひどすぎない?」

「うん。さすがにあれはないね」


 描かれているのは、水着姿の女性で。おそらくそのへんのキャッチが配っているような夜の店の宣伝用のもの。

 ちなみに、眼鏡じゃなくなってたので。陰キャと呼ぶことにしてる。


――ッ!?


「手つないでますね」

「加恋……私もぅ耐えられない……!」

「耐えて! まだ耐えよ? ね?」


 加恋が私をとめようとするので、少し思い知らせてあげようと思ったので。


「ちょ……詩帆。な、な、なんで!?」

「こういうことよ? 同性で手をつなぐって」

「いやいやいや、そうだけど! なんで詩帆は平気なの」

「平気じゃないし! 内心どきどきしっぱなしよ」


 付き合っている人の双子の妹と手をつないでる。

 同じサイズ、同じような手触り。

 すこし、有栖ちゃんとのときのほうが付け爪か当たったりする分、躊躇してしまうけど。加恋ならそれがないぶん、より密着しやすくて……。


 要するに、意外と馴染んでる。

 けど、冷静になると、すごく恥ずかしくなってきた。

 顔に血が上ってるのがわかるくらいには……。たぶん赤面してる。

 

 加恋がそうだから。わかる。

 

「あのーもう、いいですか?」

「そ、そうね。なんかごめん」

「いや……いいですけど……//」


 あれ?

 二人どこ行ったの?


「か~れ~ん~。2人どこいったか見てた?」

「え。どこいったんだろ……。詩帆、見てなかったの?」

「見ていたら聞いてないでしょ」

「そうですね……、仕方ないから、さがそ!」


 そう言って一度は解いた手を、私に向けてくる。

 たぶん、さ、いくよ。ってくらいの軽い感じのノリなんだろうけど。

 

 ほんと、黒髪の有栖ちゃんって感じ。

 こういうナチュラルな可愛さは、たぶん私の持ってないもので。

 こんな可愛い恋敵だったら、簡単に屈服しちゃいそう。

 

 負けないけどね?


 その手を掴んで、運動部女子に引っ張られるように少し早歩きで、大好きなひとを探すことにする。


――絶賛、浮気中じゃなきゃいいけど。


       ***


 あー。だるい。

 店舗前の掃除中、箒ではわいて、塵取りで埃をまとめて。

 学校と変わんないじゃん……。


 そもそも不登校だからって、こんなに毎日バイト入れることないと思うんすよね。

 まーでも、高校は義務教育じゃないけど。

 労働は義務っすからね。


 だから。私、根井円香は真面目な日本国民やってますよ。


 まーバイト中はスマホを手放してる分、鳴り響くDMの通知を見る必要もないし。その点では気が楽だし――。


(じゃあ、垢消せば? とか、心の中の私が言うんだけど……) 


 いま鍵垢にしたり、通知を切ったり、逃げ出すのは違うと思うっす。

 悪いことはしていないし、有栖先輩みたいなトップには勝てないけど。ふつーに応援してくれるフォロワーさんもいっぱいいるし。

 私は、私なりにちゃんとしてるっすもん。

 

 武器おっぱいを育てるためにいっぱい食べてるもん。

 食べるために、働いてるし?

 そのぶん、甘いもの食べて。

 永久機関っすね。


「……なんか、裏のほう騒がしいっすね」


 東京と比べると田舎なほうだけど、福岡市内はそこそこ都会で。

 そんな都会の裏路地は、あまり近寄らないほうがいい。

 それくらいの注意をするくらいには、私も女の子なんだけど。気になるからちょっとチラ見……してみる。


「……ちょっと待って! 塩野目さん。だよね」

「あなた……誰ですか? え……。榊……くん?」


 有栖先輩と……知らないイケメンと。

 私? っぽい子がいた。


 あー、うん。なにこの状況。

 

 チェシャ猫の推理によると。シオノメっていうその私っぽい子が真犯人で。その子の犯行を追い詰めている探偵役が有栖先輩で。ワトソン的な役があの長身イケメンってところまでは理解できたのだけど。

 

――これって私、出ていくべき? え、なんかやだなぁ。またてんちょーに怒られそうだし。


『業務中に、なに道草くってんの!』って。


 ただでさえ迷惑? かけてるし……定期的にヘンタイさんから電話がくるんだよね。カラオケルームの予約のふりして。違う予約を入れたがる人たちが。

 私が電話に出たら、とりあえずそのへんのデリヘル紹介するっすけど。


 ちなみに。てんちょー曰く。バイトテロ向けの保険に入ってたからノープログレムらしい。ちなみに入ったのは、私がバイトとして勤務し始めたときからとのこと。

 信用ゼロっすねー。


「そう。いうこと……。あんまりやわ。うちのこと避けるためにてきとー、ゆーたんやろ! そんな可愛いカノジョさんおるんやったら。そういえばええやん! なんでなん……それやったら。うち、こんな恰好して。胸出したりせーへんし。バカみたいやん!」

さん。それは違うって!」

「だから、それやめてや……」

「……いまのはリョウが悪いでしょ。なーまーえ!」

「あ。えっと。塩野目さん、この子は、有栖はカノジョとかじゃなくて」

「じゃあなんなん!」

「あー、えーっと……レンタル中?」

「いやいやいや、待って待って。なんかいかがわしい感じになってるから!」

「榊くん……いかがわしい子を借りてんの? なんなん、もう……」


 出る幕がないというか。

 どういう状況っすかねー。これ。

 でも、こんな恰好して胸出したりしてすみませんね! とちょっと怒ってるんすよこれでも。

 ただ、出ていけないっすよ……この修羅場。


(あー。ついでに、もう一組。見つけたし。今にも出ていきそうだけど、出ていかない人たち)


 あ、どうも。

 みたいな、会釈をするのは、先日に有栖先輩に紹介された元裏垢女子のうさちゃん先輩と……黒髪の有栖先輩?

 

 私の真似ごとしてる子の口調を真似て言わせてほしいっす。


――なんなんこれ。


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