第24話 裏垢女子は愛も憎しみも背負ってる

 榊がスイーツを堪能したことで、やっと本題に入ることとなった。

 

「俺の考察だと、まずあの炎上したバイトテロの画像は、チェシャ猫ちゃんではない」

「え? でもあの子の垢から投稿されてたんだろ?」

「ホクロがない、左胸のうえあたりに彼女はホクロがるはずなんだが、ほら。これにはないだろう」


 さすがは秀才。よくそんな細部まで気づくもんだな。

 俺は直接見たことがあるからわかったものではあるけど……。


(というか、しっかり投稿画像見てるね……。そりゃバレるわけだよ……)


「あー、ほんとだなぁ。榊くらいドスケベじゃないと気づかないぞ」

「そう褒めるなよ」

「褒めてねーよ」

「で、だ。真犯人のついてなんだが……。すこし心当たりがあってな」


 マジか。

 こんなところで、重要な情報にありつけるなんて。

 俺は白桃ジェルとミルクをストローでかき混ぜながら、榊の言葉を固唾をのんで待つ。


「塩野目さんだと俺は思ってる」


 塩野目……? シオノメ……?

 誰だ。


「いや、ちょっと待って。急にシオノメさんって言われても。だれ?」

「わりぃ榊……俺もわかんねぇ」

「クラスメートの女子の名前も覚えてないのか、お前らは」

「……あー……シオノメ……。いたか、ああ。いやでも……。眼鏡かけた大人しい子がたしかそんな感じの名前だったような」


 筋肉がない頭でひねり出したのは、教室入ってすぐの席、教室の右上のほうに座ってる大人しい女子のことだった。

 席の場所が場所だけに、登校してすぐそこに座り、特に教室の中ほどにくることもなく授業が終わればすぐにいなくなるから……。

 本当に印象の薄い女の子で。

 

 それが、あんな画像のようなバストをもった子で。

 しかも他人の垢をのっとってあんなバイトテロをするのか?


「ちなみに下の名前は汐里。塩野目汐里。語呂がいい」

「それ、本人に言うと怒られるぞたぶん」

「もう怒られてる」

「え? 接点あったの?」

「まぁ告白されたことあるからな」


(へ? さらっといまなんて言った?)


「さ……榊お前……まさかカノジョいたのか」

「いや、断ったからいないぞ。そのときチェシャ猫ちゃんの画像に夢中だったから。リアル女子に構う暇もなくてな」

「え? それって――。そのとき塩野目さんは榊がチェシャちゃんの写真見てたの知ってるの?」

「ん? チェシャちゃん?」

「あ……いや、『チェシャ猫』ちゃんのね。画像、見てた知ってたら。それが動機なんじゃ? 逆恨みもいいとこだけど」


 ところどころ、素が出そうになる。

(訂正、素はこっちだ。有栖のほうがつくってるほう)

 ただ、少しずつ見えてきた。榊に恋をした塩野目汐里さんが、告白したときに榊が適当な受け答えをしたうえに、おそらくはチェシャちゃんに夢中だったために……逆恨みしていたと。

 

――つまり元凶ってこいつじゃない?


 一応そのときの告白の状況について詳細を聞いてみることにした。

 まぁ、俺も筋肉もそのあたり興味があったわけで。

 あまりにもひどい状況だったのだが、こういう感じだ。


       ***


「あの……ね? 榊くん。いまちょっといい?」


 放課後、居残って日直の仕事をしていた榊にそう声をかけたのは、同じ日直当番で残っていた塩野目汐里さんだったという。

 仕事といっても日誌を書くだけの作業が残っていて、榊はさきに帰っていいと伝えていたため、あとはスマホでTwilightのTLを眺めながらだらだらと過ごしていたという。

 そのときチェシャちゃんの最新投稿があがっていたので、それを、まじまじと。細部まで見ていたところだったらしい。シオノメシオリ


「ああ。なんだまだいたのか。えっと、たしか。韻を踏んだ名前の……」

ノメリ、です」

「ああ、そうそうシオさんどうした」

「それ止めて、ください……」


 大人しい感じだったけど。その時少しムッととしていたとのこと。 

 そりゃ怒るだろと思ったけど、そのあとの話を聞いてみることにした。


「あのね。榊くん、いま付き合ってる子とかいるのかな?」

「いないな。それが? どうした」

「じゃあ、あの。ね。うちと付き合ってくれへんかなーって」


 なんで関西弁? とつっこみたくなったけど。


『ところどころ関西弁なのは、どうやら中学のときにあっちから引っ越してきたそうだ』

 

 榊からご丁寧な中略が入ったため納得する。


「……すまん、俺いま気になって止まない子がいるから無理だ」

「それって……その、いつもスマホで見てるっていう女の子」

「そうだな」

「……そう。おっぱいが大きい子がいいの?」

「ただの大きさが大事なわけじゃない。その色合いとか、形とか――」

「……てー……。さいてー!! 榊くんひどいわ、あほ!」


 という感じのやり取りで、走って去っていったという。

 去り際の台詞が新喜劇みたいだったと言っていた。

 

       ***


「さいてーだな」


 俺と市河は揃ってそう口にする。


「そう、褒めるなよ」

「褒めてねーよ!」


 全力でそう返す。

 ちょうど手元のフラペチーノも空になったことで。

 男子会は打ち切りとなった。

 というのも、仲間だと信じていた榊に出し抜かれたショックで市河が萎え萎えで。このあと遊びにいくという感じじゃなくなったわけだけど。


 榊としては、多少の罪悪感? らしいものはあるようで塩野目さんが本当に犯人であるならちゃんと話をしたいという意思はあるらしく。


 そのあたりの話も踏まえて、『有栖』と話したいと後ほどLINEが入った。

 仕方ないので、了承することにしたけど。


「あれ……じゃあ、榊の好きな子って、チェシャちゃんってことになるのかな……」


 ふと浮かんだ疑問は、LINEじゃなくて直接ぶつけることにする。


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