第34話 裏垢女子のなかには、ウザいのもいるし痴女もいる

 バスに揺られて到着した駅前のバスセンターから少しだけ歩く。

 到着した博多駅の新幹線の改札前にはすでに俺以外の全員が揃っていた。


 男子は、俺と市河と榊というクラスでなじんでいるいつも通りのメンツ。

 そして女子はというと……。

 シロちゃんと、チェシャちゃん。そして塩野目さん。

 最後に、有栖……に扮した加恋だ。


 その、加恋の変装を知っているのは有栖の正体を俺だと知っているメンバーだけで。この中だと、榊とシロちゃん。あとはチェシャちゃんと変装をしている本人、加恋ということになる。


 なにか会話に困ったら連絡するように伝えているし、最悪の場合はAirpodsで通話しながら内容を伝えるということは加恋に言ってある。


「……うまく誤魔化したもんだな。妹さん、なんだよな」

「あはは……そりゃどうも。これが腕ってもんよ」


 遅れてきた俺に近づいた榊に化粧の腕をアピールする。

(今日はいつも通りの眼鏡姿なんだ……)


 もしものときに(有栖に代われるように)持ってきた大き目の旅行バックを選んだのがあだになって遅れたのだけど。

 それでも足りずに結局バッグは2つだった。

 そのうちの一つをひょいと榊が取り上げる。


「おい、いいのに」

「あんまりムリすんなよ? 協力はするからな」

「イケメンかよ……まぁ、ありがとね」

「……おう//」


 なんかちょっと照れてなかったか? まぁ、いいけど。


「遅れてごめん。ちょっと荷物がまとまらなくてさ」

「いいよいいよー、まだ時間には余裕あるし? あ。旬、紹介したかった子がいて。この子が有栖ちゃん」

「え、あ。え。詩帆! あー……どうも、です。えっと~、有栖って言います。東女の一年です」


 そう。話に矛盾が生じないよう、有栖の設定は加恋と同じ東女に通っているということにしようと打ち合わせていた。


「俺は、旬っていいます。えっと、一応しr……詩帆とはお付き合いをしてる感じで……えっと、まぁ。とりあえず今日はよろしくお願いします」


 ぎこちない挨拶になったけど仕方ない。

 だって、いまさら兄妹で初対面の挨拶なんて。しかも自分の鏡映しのような子なんだから。


 軽い挨拶のあとで各々事前に購入していた旅券を使って改札を抜ける。7人での移動ともなると、やっぱり自然とばらけていくもので。

 榊と塩野目さんが隣り合って先を行く。

 

 お互いあんなことがあって以降なのに、それなりに楽しそうに話してるもんで。

 シロちゃんと加恋はお互い親友かのようにべったりで。

 俺=旬の入れるような隙がないくらいで、まぁなぜかその隣に市河がいるわけだけど。


「……なーんか、私よりもあっちが気になる感じっすか?」

「あ。いやそんなことないってチェシャ……円香さん」

「チェシャちゃんでいいっすよー。言ったじゃないっすか。私、センパイが男の人だったほうが都合がいいって」


(あ、そういえば言ってた気がする……)


 隣にチェシャちゃんがいて、話かけてはくれるけど……。

 やっぱりシロちゃんたちが何を話してるかが気になる。


 なんせ、加恋はいまや有栖で……つまり俺なんだから。

 今のところはヘルプ的なLINEもないし。

 それどころか、終始笑顔だし。

 

 有栖……最後に塗ったリップ、すごく似合ってるな。

 アイシャドウに合わせたオレンジ系のもの。

 

 ぼーっと眺めていたら、急に腕に違和感があった。

 え? チェシャちゃん!?

 

(なんで、腕掴んでくるの?)


「ちょっと……チェシャちゃん?」

「だめっすか? いつもはもーっと近いっすよ?」

「あ……いやそれは……あの。ね?」


 確かに有栖のときは、チェシャちゃんとは結構引っ付いてたり、一緒に絡んだ状態での写真を撮ったり……いろいろこの夏までの間にやってましたけど。

 旬はそういうの、慣れてないんですよ。


(腕に胸が挟まっていってるんですけど……)


「顔、赤いっすね」

「……わざとだよね!?」

「まさかぁ。私がそんな痴女みたいなこと~、すると思います~?」


 いや、思うし。てゆか一番の痴女だよね。

 その本当の原因は塩野目さんだけど……炎上したことでより過激になった彼女の投稿は話題になっていて。

 いまや、チェシャ猫はトワイライトで一番注目されてる裏垢女子だ。


「いまセンパイ、って顔してるっすよね……でも、そのうざがってる顔もかわいーっす」

「……あー、もう! ちょっとは大人しくしなさいよ」

 

 俺は絡んでくる手を掴んで、下へとさげる。


「はーい……わかったっす――有栖センパイ」


 最後はめちゃくちゃ小さな声で、それなりに配慮はしてたみたいだけど。

 これ以上絡まれちゃ困るので、このまま手は抑えとく。


「あの。……センパイ?」

「なに?」

「……このままずっと手つないでおくっすか?」


 顔を赤らめたチェシャちゃんが、同じくらい小さな声で呟いた。

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