【第二章】鏡映しのアリス
第11話 裏垢女子は知らないとこで拡散するもので
最近、おにぃが綺麗になったと思う。
なにを言ってるの? と思うかもしれないけど。
だからなんだってこともないけど……。
すれ違うときにいい匂いがするし。
まぁ、加恋には関係のないことだけど。
「……加恋」
あと最近女の子を連れ込んでた。
その人もとても可愛い子で、なんかすっごくおしゃれで。
たしか、ありすさんって言ってた。名前も可愛い子。
まぁ、加恋には関係のないことだけど。
「……加恋ってば」
ちなみに双子だから、別に敬称を込めて呼んでるわけじゃない。
気を抜くと、すぐにおにぃの名前をよびすてで『旬』って呼んでるし。
でも、なんかそれだと恋人同士みたいじゃない。
だから、兄妹アピールに、おにぃって呼ぼうと努力してる。
「――新見加恋!」
「あ、え、え、え。ごめんなさい!」
「いや、謝ることはないんだけど。ずっと呼んでたんだけど」
「あ、えっと……なんの話だったっけ」
女子サッカー部、そのミーティング中だった。
まったく話きいてなかったけど。
だって、あんまり意味がないって思っちゃうから。
というのも、ここ東筑女学園は県内では数少ない女子サッカー部のある学校ではあるんだけど。男子ではメジャーどころでも、女子にとってはマイナースポーツ。
人数がそろっていないためにろくに試合もできない。
そのため、ボールを触ってるときより、ミーティング(お茶会)の時間のほうが長い。しかも、内容は大抵が誰がだれと付き合ってるとか。だれがだれと別れたとか。
そういうの。
あと、サッカーらしいことと言えば。
部室という名の空き教室で持ち寄ったお菓子を食べながら、フォーメーションの参考にサッカーゲームをやったりしてる。
私は、ボールを触ってるほうがいいんだけど。
(……教室でリフティング中にガラス割ったx2回があるからなぁ……。言い出せない)
「――決まったから」
「あー、えっと。誰がだれと付き合ったわけ?」
「は?」
「……あれ?」
「聞いてないにもほどがあるでしょ」
呆れた表情をしているのは、サッカー部の部長、夕実さん。
この感じは……どうやら私は大事な話を聞きそびれていたらしい。
でも、聞いてないものはきいてないんだから。
しょうがないじゃない。
(たぶん、おにぃが悪い)
「夕実さん? もしかして、すっごく久しぶりにサッカーの話をしてました?」
「一年のくせに。バカにしてんの? ここはサッカー部よ」
「……だって、試合なんてしたことないじゃない、ですかぁ」
「だから、試合が決まったって話をしてるんじゃないの」
「!!」
(え、そうなの? やった。試合できる!)
その喜びが、すぐにも単なるぬか喜びだとわかるのだけど。
一瞬ほんとにうれしくて飛び跳ねそうになった。
「でもね、残念なことに人数が足りないわけ」
「まるで、いままでは足りてたような言い方ですけど……?」
「でもね。残念なことに人数が足りないわけなの」
「なんで言い直したの!?」
「……私だってわかってるわよ。ええ、うちの部員数は掛け持ちの子をかき集めても10人。サッカーに必要なのは11人。まー、だれかがレッドカードで退場したところからスタートってことで割り切ってもいいんだけど……」
「あはは。まさかー、だってうちに足りないのって、キーパーじゃないですかぁ」
「……言わないでぇ。加恋だれかいない? それかあんたキーパーやんない?」
どうして私に矛先が向いているか、というと。
このミーティング。2人きりだから。
他のメンバーは皆、バイトとか、本業の部活とか。デートとか。
そういうので、欠席。
だから夕実さんの相手役は私しかいない。
「やー、加恋にはムリですよー。キーパーなんて、おにぃがやってるの見てたけど絶対にやりたくないってポジションですし。汚れる、怪我する、成功して当たり前、失敗したら責められるってもんですよ?」
「あー……近くにやってる人がいると、そう思っちゃうよね。あ、じゃあ加恋。そのおにぃって双子でしょ? 女装でもなんでもさせて連れてきちゃえばいいじゃない! どうせ公式戦じゃないんだし……ね? ね?」
すっごく楽しそうに無茶言うなーこの人。
夕実さんは美人だ。
サッカーをするには長すぎる髪を、ポニーテールで束ねて、いつも愛嬌のある顔で笑う。誰もいない校庭で、こっそりランニングしてる姿を毎朝見かける。
このひとがいたから。私はここの部活に入ることに決めた。
――最近、おにぃが綺麗になったと思う。
でも、ありかも。
私、加恋は。サッカーをしてたときのおにぃが好きだった。
だから私もそれを真似て。気づいたらサッカー部のある学校を選んでた。
でも肝心のおにぃはサッカーをやめてしまった。
もう一度、その姿を見れるなら、私も夕実さんの無茶ぶりにのっかってみても。
ありっちゃありだよね?
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