第39話

「実は父が亡くなってね」

「お葬式は出させてもらったわよ」

「そうだった。わざわざありがとう」


私が冠婚葬祭嫌いであることは知ってる。


「じゃあ、理事長さんとして大変ね」

「なかなか仕事に慣れなくてね」

「それでしばらくご無沙汰してた?」


「そういうこと…ワイン頂戴、いやそれじゃなくて一番いいやつ」

「え、いいの?ピノはないよ。1級で原価10万だから…」

「2倍でどう?」

「ありがと、添え物、作るからちょっと待って」


こいつ、ブドウはピノが好み。私はカルベネ。

チーズが嫌いなので、塩辛い生ハムにベビーリーフを添える。トマトは冷やしたのを沸騰したお湯につけて皮を吹かし、ダイス形に切って有田焼の小鉢へ、オリーブオイルと酢、塩をふって出来上がり。


あとは小ぶりのガーリックトースト、刻んだニンニクを軽く炒めて、パンを焼く。この香りがたまらない。


「デカンタ、短いけど」


カビの確認、オッケー。

ワイングラスは側面にダイヤのポイントがついた、一番高いグラス。

割るなよ、けして。


「カンパイ」

「ふぅ、旨い」


やっぱり5千円と10万では違うわね。

高いワインで2,3日は幸せになれるんだよね。


「奥さんは元気?子供もそろそろ大きくなったでしょう」

「やんちゃで困るよ。前の子供たち含めて、合計5人だから」

「すご、また生まれたの。跡取りには事欠かないわね」

「それがそうでもないんだ」


公立病院の副院長をしていた吉崎は、大学病院の院外講師も兼ねていた。糖尿病の研究で学位をとって、30代半ばまで大学病院に勤めていたが、実家から跡継ぎ修行をせっつかれて、近隣の公立病院へ出向していた。

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