第32話

その夜、3人は看板を1時間も過ぎて帰ろうとせず、ようやく、馬淵のおっさんが、


「一条さん、ミカンちゃんもお困りのようで」

といって、場を閉じてくれた。


一条は

「じゃ、これで」


といって、分厚い封筒を渡した。


千円札10枚、まさか、万札10枚、いや、20枚くらいはいってる。

中身を確かめようとすると


「足りなかったら、ここに連絡ください」


といって私を止め、真新しい名刺を背広の内ポケットから出した。

それから3人はそろって店を出て、どうやら2次会に連れ立った様子。

ほっとけ。うちは看板だよ。


まったく、疲れたぜ。

明海の吸ったたばこの臭いが換気してもなかなかとれず、急いで奥から扇風機を取り出し、芳香剤を回してようやく消えた。


午前2時…

好きなジャズピアノをかけながら、洗い物がようやく終わりかけた頃、


「ちわ…」


扉が開いた。三谷だった。

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