第31話

かと思うと、ビールのせいで頻繁にトイレに駆け込む明海がいなくなった隙間、男達はなにやらヒソヒソと会話を始めていた。

私はチラ見しながら、スマホをいじっていた。


「奇遇ですな」とか「日本が良くなれば」とか政治臭のする言葉が時折、耳に入るも、はっきり聞き取れなかった。

馬淵のグラスが空になりかけた頃、私はテーブルに赴き、


「お代わりは」


と問いかけた。


「ありがとう、次は芋ちょうだい」


馬淵は薄気味悪く笑顔を作った。

ひょっとして、二人は学校の先輩後輩とか。世間は広いようで狭い。

ま、どうでもいいか。

私はいつもの芋焼酎をグラスに注ぎ、コースターの上に置いた。


「ミカンさん、気に入りました」

と一条が耳元でささやいた。

馬淵も


「でしょう、いい店なんです」

と相槌をうった。


普段から、あんたなら、俗にいう銀座のママに楽勝で勝てる、といわれる。ネットの動画にのってるような、ブランド、アンチエージングで固めたノペっとした女子には若さでは勝てないけど、そりゃ、こっちにはおっさん、時によってはじいさんを惑わす、オーガニックフェロモンが備わってるからね。ましてや女子も味方につけられる、トークと感性は前の仕事でさんざん磨いた。

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