第30話
明海がいきなり、一条の頬にチュウをした。
「これは、これは」
馬淵は一瞬、無視したようにも見えたが、
「お言葉に甘えて」
といって、席を移した。
さして広くもないソファー席で4人も腰かければ満杯なのだが、明海を真ん中にそれぞれ酒をもって、落ち着く。
「ミカンさー、ツマミも料理も、あと酒はビールジョッキを3つ出して。ね、いいよね、一条さん」
「どうぞ、遠慮なく、馬淵さんはいかがします」
「いやいや僕はゆっくりいただきますよ。もう出来上がってるから」
二人男のピリピリした空気が明海のおかげで、温暖化した。
コイツ、馬鹿だと思ったけど、違う。感謝。
明海は一条になにかと寄り添いながら、酌をしつつ、自分のジョッキもガバガバと開けていた。
「ねぇさんもこっち来なよ」
とかいわれたが、私は輪に加わるつもりもないし、これまでもそうだった。カラオケの主役はひたすら明海だった。
のぞみの店でみせた、一条の、あのカクシャクたる態度が消えて、上品だが、探せばどこにでもいるようなおっさんの顔になっていた。壁の棚に飾ってあるタンバリンやマラカスで、おっさん二人が楽しそうに援護している。
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