第29話

「ありがとうございます。後は手酌でいきますので」


普段は酔ってそそうなどしない、馬淵がなぜかしつこかった。


「一条さん、お付きの人が外でウロウロされると、他の客が入れないですよ」

「あ、気づかず、すいません。注意してきます」


一条は一口つけた後、さっと立ち上がった。


そっか、警護役かなんかが外に立ってるのか、道理でさっきから影がちらちらしていたのか。


それにしても馬淵のおっさん、よく気づいたな。

大物政治家の前でも動じない、なぜなぜ?


「来た~」


明海が一条の後ろについて入ってきた。


「あなたのおっしゃる通りでした。すいません」


馬淵に向かって一礼したのもつかの間、明海は


「ガタイのいい兄さんたちがドアに立ってるから、やーさんかなんかが店を占領してるかと思ったよ。このおじさんがコイコイしてくれてさぁ」

「あんた、今日、仕事じゃないの?」

「医者がアレの時は休めって。おっと、馬淵さん、横にずれて」


3人そろってカウンターに並ぼうとした時、一条が


「みかんさん、そこのテーブル、使ってもよろしいか」

「え、そうですか。い、いま、拭きます」


「皆さん、今日は私が持ちますので、そちらに移りませんか」

「へぇー、まじで。まじ?おっさん」

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