第28話

私は馬淵の詮索するような目つきを無視して、冷蔵庫からハーフボトルの吟醸をのぞいた。


「辛口、甘口、中間、どちらに」

「甘口もらおうかな」

「かしこまりました」


馬淵は、また言った、と軽く首を振ると、一条に向き直り、


「一条さんって、ひょっとして、政治家の一条さん?」

とまじまじと顔を見つめた。


「ええ、まあ」

「はぁ、そうですか。これは、これは」


これ以上、詮索するなと、鋭い目線を馬淵に向けた。

彼も感づいたのか、黙って焼酎のコップを口に据えた。


氷スペースのへこみ付きガラスボトル、冷酒用に1個だけ買ってあった。しっかりつけ置き洗いしていたせいで、くもり、シミ、なし。


はぁ、よかった。


カウンターに薄手の敷物を引き、これは趣味で作ったフクロウの刺繍つきの私のオリジナル、でボトルを添えて、橙色の明かりに反射するように一条の真ん前に置く。


「なるほど」


わかったような、わかってないような。この感性。


「噂通りの方ですな」


酔って割られたら困るからめったに使わないけど、フチ厚の万華鏡風に装飾されたチョコに注いであげた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る