第27話

馬淵はさんざん飲んだ後、十八番をカラオケで歌う。酒はめっぽう強い。ろれつはしっかり回っている。が、音程が全くあってないから、周りは全員、耳をふさいで近寄ろうとしない。


もう1000回くらい聞いたから、私も相手するのが面倒だし、スマホをイジリだす。


「総裁選、もと副総理の阿部氏が一歩リード。ふーん、誰だろ」


検索サイトに写真付きでパンダのような顔が真ん中に据えられて、その他の総裁候補がそれぞれ独特の切り取り画像で列を重ねていた。


誰が総理大臣でもいっしょ、だろ。この国は。だって立法、行政、司法by官僚なんだから。

ググっと扉が開く音がした。力がないのか、のぞきに来たのか、扉は警戒するよう、ゆっくり開いた。


「今晩は」


なぜか声には張りがある。ン?誰?


「みかんさん、きましたよ」


え?もしや。


「一条です」


私の目がよっぽど大きく見開いていたのか、一条はギョッとして進めようとしていた歩を留めた。


「先生、どうぞ、どうぞ」


するとにんまりとした表情に変わり、安心したように馬淵の隣に腰かけた。


「どうも、一条といいます」


一条は右隣の馬淵にしっかり挨拶する。


「一条さん、あれどこかで聞いたことがあるな。私、馬淵と申します。近くで不動産してます」

「なるほど、よろしくお願いします」

「先生、何にしましょうか」


「みかんさん、その先生はやめてください」

「す、すいません」


「日本酒ありますか」

「は、はい」


「冷でください」

「かしこまりました」

「みかんちゃん。かしこまりました、って」

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