第24話

そりゃそうだよ。私は夜の商売ではプロになれない。いやな客は断るし、気分がのらなきゃ、勝手に閉めるし。


「三谷は?」

「そうだな。なんつうかさ…」


もぐもぐして、なかなか口を開こうとしない。


「そういえば、あゆみさん、いないの」

「…うん。いない」

「どこ行ったの、仕入れ?」


「…いや」

「なによ、暗い顔して」

「多分、戻ってこないと思う」


「え?出てったの」

「浮気してた」

「う、浮気?」


オシドリは見せかけ?だったの?


「ちょっとぉ」


私はカップを置いて、冗談止しなさいよ、みたいな体で酔狂に笑った。

無反応だった、彼は


「昨日、出てったんだよ」


どうやら本当らしい、コトを、理解した私は残りのコーヒーをのみほして、


「あんた達、うまくいっているように…みえたけど」

「俺もそのつもりだったけどね。会社の元上司とできちゃった」


三谷はかなりの高学歴で、一流大学の大学院博士課程まで出てる。車メーカーに入り、電気自動車用の電池の研究をしていた。

それが8年前に会社をやめ、農家や八百屋の修業期間3年を経て、5年前に開業した。


妻のまゆみは同じ会社の事務職で、三谷より8歳下の33歳、社内合コンで知り合い、店の開業と同時に結婚したが、臨時職として仕事は続けていた。


高給取りを捨て、私と同類の趣味的な仕事になぜ満足しているのか。

というのが、当初の疑問だったが、今ではどうでもよくなり、互いにため口をきいている。

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