第43話

「どお?まったく、お騒がせね」


吉崎はすでに帰っていた。

内田恵子はミカンの顔に気づくと、とっさに泣き出した。

あの何かの獣のような甲高い泣き声だった。


「家はどこなの、送ってくから」


点滴ボトル500mlの2本、その後は白い顔にすっかり赤みが戻っていた。急速な体液補充に尿意を催したのか、


内田はごめんなさい、といって、トイレへと身体を起こした。

せき込む音が扉の奥から漏れてきた。


「夜の仕事は大抵訳アリだけどさ、こまめに動くし挨拶も上手だったからついつい…」


「それよりさ、とっとと家に帰してデキンにしよ。顔にトラブル大って、書いてある」


「そうだね…」


トイレから帰ってきた内田恵子は

「すいません」


と深々、首を垂れた。


「ちょっと怪しいけど、家に帰って寝ればよくなるでしょ、さ、行こう」

そう、私がいうと


百戦錬磨ののぞみは、その前に、といって


「素性、はっきりさせないとね」

と、うつむく内田恵子に


「学生証、免許証、みるよ」


と無遠慮にセカンドバックを手に取った。


二人して中を覗き、財布やカードケースを漁った。


「どれどれ、ア、学生証、ふーん、頭は良かったんだね、確かにU

大学法学部だ」

私が安堵したのもつかの間、のぞみが


「やっぱりね、1歳、間引いているじゃないの、飲酒年齢は20歳なの!ダメじゃない」


とうつむく内田恵子に向かって、免許証を振りかざした。


「まあまあ。おおむね、正直ってことで今回のところは許してあげる。でもね内田君、もうお店来ちゃだめよ」


のぞみは二つの身分証明書を並べて、写メしていた。

あらゆるリスクを考える人、やっぱり私より、一枚も二枚も上だな、のぞみ。。。

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