第42話

「お、調度いい所に現役ドクターが。ねぇ、あんたも行こうよ、面倒みてよ」


吉崎は一瞬、目をとがらせたが、


「仕方ないね、ミカンの頼みとあらば」

と仕事付きの顔になった。


「じゃ、タクシー呼ぶね」



内田恵子は店の控室に横たわっていた。のぞみがそばについていた。

呼吸はしているが、顔面が異様に白い。


「なんで病院に運ばないの」


吉崎が咎めるような声でいった。


「だって、本人が絶対イヤだって。親にばれたらとか」

「ねぇ、いろいろ訳ありなんだよ。もし未成年だったらまずいからさ、吉崎の病院から点滴セット借りて、処置しようよ」


私が吉崎の肩をそっと撫でると、

彼はちぇっと舌打ちをして、スマホを取り出した。


「急性アル中?」

「まあ、そうだろうね。点滴流せば、すぐ治るよ。私の店でカクテルだしたけど、怪しかったからほとんどウォッカ混ぜなかったのに、フラフラしてたからね」

「先に教えてよ」

「だって、客の相手するとは思わなかったから。あんたのことだからすぐ帰すだろうって」

「ノリがいいからついつい、お客さん付いちゃったのよ」


二人で責任のなすりつけ合いをしているうちに、吉崎はさすが仕事のできる男、さっさと己の病院の看護師に指示し、点滴、クスリ、その他の器具を手配した。


「吉崎さん、ありがとう。恩にきます。今度、ばっちり接待するから」

吉崎は、

「まったく、今度だけだよ」

といいながら、ハイクォばかりの従業員、誰をとろうかな、とでもいいたげなスケベな含み笑いをした。

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