第5話

「あ、気持ちいいね。お母さんになった気分」


白地に黒のストライプが乗ったブラウス、イエローゴールドのピアスが映えるように、髪はショートにまとまり、靴は某ブランドの偽物のようだが、透けたような左腕につけてる時計はムーブメントが安物ではない。


どうやら育ちは良さげだ。


「カラオケする?」

「いいんですかぁ」


酒に弱いのはすぐ顔に出る。食事で準備体操をしたのに、二口くらいで緊張がとれたように、ろれつが絡んでいる。実はウォッカはほとんど混ぜてない。


タッチパネルを押して流れてきた曲は、私でも知っている、というか、私世代の曲だった。


「みぃず、色のぉーー、風にさそわぁーれてー」


アラ、結構上手。


そして突然、立って、勝手に振り付ける。

もうちょっと夜が更けていたなら、タンバリンやカスタネットで応援するのだが、まだ7時半を回ったばかりだ。


「ほぃ、ほぃ。いい声してる」

「ありがとうございまーす」


彼女はくるっと1回転した後、息をついて座った。


「ノリがいいわね。もう一杯飲む?」

「いいんですかぁ、はぁ、気持ち良かった」

「じゃ、同じのしか作れないから。もう一杯」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る