第17話

ひでぇ雨。


こういう日は誰もこない。面倒だから早く閉めて帰ろうかと、11時を過ぎた頃だった。


「アラ、高橋さん、久しぶり」


半年ぶりにやってきた男はいわゆる上場企業の副社長、高橋だった。前は2週おき、決まったようにやってきたのに、プツリと来訪が途絶えていた。


「いやいや、忙殺、忙殺」

「遅いから、軽いのにする?」


「いや、ひと段落ついたからね、ワイン開けて」

「私、そんなお手伝いできないよ」

「いいの、いいの、一番いいやつ開けて、残ったら明日飲んで」


じゃ、ボルドーだな。客がそういうんだから。


デキャンタがワインの味をきめる。本来はあと30分はほしいところだが、しょうがない。軽くふって無理やり空気をなじませる。


「おお、良い色」


高橋は顔を崩した。


高いワインってのは幅広のグラスでくゆらせると、赤茶のゴミみたいのが浮いて、何これ?って感じなるが、フィルターで漉して空気に触れると、しっとり落ち着いたあかね色になる。


独特のとろみは料理の邪魔をせず、口の中で控えめにしみ込む。

信頼できる店とはいえ、ネットで買ったからはずれだと悲しい。


2級だけど、6万もしたんだからね。

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