第16話

盛り上がりを横切ろうとした時、のぞみはカウンターで相手をしていた、大将に向かって、


「今日のお料理、いかがでした。急遽、友達にお願いしたんですの」

といらぬ挨拶を私に強要した。


「ほう、そうですか。いやいや、旨かった。若い連中も喜んでおります」

「みかんといいます。お粗末様でした」


ン?なに、その名前、と大将は眉をひそめたが、


「みかんさんは小料理屋を営んでおりますのよ」

「そうですか、是非いきたいな」

と相好を崩した。


おいおい、料理人じゃないぜ。

や、め、ろ。


「名刺きらしてて、すいません」

「先生、後ほど、私からご連絡しますわ」


のぞみの手前、やったことがないほど頭を下げて、とりあえずその場を離れた。


「連絡なんかしないでよ。これ以上、店におっさんが増えたら困るし」

「わかってる。こっちも客とられたら困るぅ」


バーのぞみ。

そのまんまの黒い看板を背に、繁華街の細道を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る