第36話

「先週はお休みだったんですね」

「うちはテキトーだから」


あの日以来、身体が酒を受け付けず、店も嫌になって休んでいた。

別に、趣味なんで…


内田恵子がまたやってきた。


今日は食べてきたといって、注文はコーヒーだけだった。

夜からコーヒーなんて、


「私、カフェイン不感症なんで」


と彼女は気にする様子なく、カップを手に取った。


「先日のことなんですけど」

「え、ひょっとして働く、とかいう件?いやあ、無理でしょ。私、テキトーすぎて、あなたの都合なんか考えずに休むから」


久しぶりに飲んだワインが口内でひろがって、良い。赤のフルボトルが私の定番だ。中級の5千円、うん、これなら店に置ける。中南米でもアメリカでもない、やっぱり好みはフランスかイタリア。


「それに、社会勉強なんて他に手段もあるし、第一、親が許さないんじゃないの」

「その、親がイヤで」


「まあ、あなたの年齢なら親と仲が悪いのはありがちなことだし、どっちにせよ、私じゃ責任もてないよぉ」


酔ってついつい、声のトーンをあげた所、内田恵子が豹変した。


「じゃ!私どうすればいいですか、家を出たいんです。どうしたらいいか教えてください!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る