第9話

「何、いってんの」

「お願い、議員さんが来るの」


実はこういう状況は初めてではない。

彼女の営むスナックは知る人ぞ知る、セレブどもの隠れ家なのだ。


プロの板では家庭の味がしないし、そういうのはさんざん食べてる連中だから、素人くさい手料理風が、かえって気持ちをくすぐるらしい。


「ね、お願い、一生の」

「ったく、何度目の一生だよ」


今日は水曜日だし、客がくるとしても10時過ぎだろう。

猫の目だ、ごろにゃんだ、こいつはナデナデ戦法の猫になってる。


仕方ない。同類人間のよしみで、いったん店を閉めることにした。


「10時には去る!」

「ありがとー、助かる、じゃ、これ、軍資金、5万」


だが、彼女の後姿を見送って、すぐ後悔した。

小人数かとおもいきや、10人の集団、貸し切りとのこと。


ばかやろう。


こんな遅い時間じゃ、スーパーには萎れた野菜しかおいてねぇんだよ。


ふざけんな。


後で大金、せしめてやろうと、厚化粧ときつい香水のかおるカウンターを拭いて、せっかく灯した店の明かりを消した。

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