第38話
「今日はのんびり行きたいね」
そう、ひとりごちて、しっとりワインを傾けていたところに、珍しい客が来た。
何年振りだろう、会うのは。
忘れた頃にやってくる、とかいうのじゃなくて、ちょくちょく顔はみせていた。しかしここ、2年は来てない、私のもとカレ、学生時代の。
私と別れた後、1回離婚して、2人目の奥さんは15も離れている。
年は一つ上の、吉崎、一浪してたからな。
「こんばんわ」
「あら、めずらし」
いつもは誰かしら連れて、テーブル席に座るのだが今日は1人だった。
「一人なの?」
吉崎は丸い笑顔で、こっくり頷いた。
あれ、太ったな。
「忙しくてね。ここのところ、君はどう」
「まあ、ボチボチ」
「仕事は?」
「しばらく、休憩。時々検診のバイトするくらい。大学は?」
「さすがに疎遠だね。教授が変わったし」
若いころからいかにも大病院の息子といった感じの洗練された風貌で、胸厚で白いシャツが似合う男だった。学生時代は外車に乗せられて、いろんなところに遠出した。両親にも紹介されたし、すわ結婚か、と思いきや、私から別れた…と記憶している。
だって、跡取り息子の玉の輿。堅苦しいに決まっている。両親、係累、親戚のよどみない意見注進が私の生活を乱す…ので、去った…と記憶している。
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