第20話

ここで、またいい人、見つかるよ、なんていうと、迫られる可能性がある。

じゃ、みかんちゃん、俺と。なんて。


50近いのに清潔感があって嫌いなタイプではないけど、客とあれこれすると私の大事な場所を失うことになる。


ア、目が座ってきた。ヤバい。


「いくら給料が高くたって、女はそれじゃ満足しないんだ。俺がどれだけ…」


高橋の手が私の手にかぶさるように伸びてきた。顔つきと違って意外とごつごつして、大工か漁師を思わせるような厚いざらついた皮が手背を覆った。


「ねぇ、そうだよね。みかんちゃん」


高いワインを開けてくれたし、ま、いいかと許すことも考えたが、やっぱりダメ。


「高橋さん、明日も仕事でしょ。悪いけど、そろそろ看板だから」


しかし、彼の手は離れなかった。

その時だった。


「まぁいどぉ。アレェ、高橋さん、久しぶり、元気?」


明海だった。

彼はビクッとして後ろを振り返ると、貝がさっと身を引くように手を引っ込めた。


「いやぁん、帰りがけ、タクシー乗ってたら、電気ついてたからさぁ」

「もう、看板だから」

「一杯ちょうだいよ、それで帰るからさ」


偶然とはいえ、助け船がきてくれて一安心。

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