第32話 わんわんパニック 忠犬はこの私だ!4


 鉄橋に並ぶクーちゃんとフェンリル。

 その背後に、たっちゃん達が並んでいる。

 ジークちゃんが、


「それではルールを説明します。お二人はこのまままっすぐ街まで行って下さい。そしてコンビニ、ホットマートのマートボックス弁当五〇〇円を買って温め、冷めないうちに戻ってきて下さい」


 くーちゃんとフェンリルは大きく頷いた。


「それでは、用意……」


 クーちゃんとフェンリルが前かがみになる。


「スタート!」

「はあああああああああああ!」

「ワオオオオオオオオオオン!」


 F1カー並の爆発力で走り去る二人。

 その様子を、たっちゃん達は唖然として見る。


「うっわー、ふたりともはやーい」

「おつかいにはうってつけですね」

「むしろパシリなのですよ……」


   ◆


 その頃、大橋の長い直線コースをとあるバカップルがドライブしていた。


「どうよこの新車。言っとくけどパトカーだってこいつにゃ追い付けねぇぜ」

「やぁ~ん、たっくんすごーい❤」


 どびゅんっ!

 すぐ横を、二人の少女がぶっちぎっていった。


「なぁ……今、女の子が通り過ぎていかなかったか?」ぽかーん

「……うん」ポカーン


   ◆


 クーちゃんとフェンリル。

 二人は道路を全速力で疾走。

 次々車を追い抜かして街へ侵入。

 信号を無視して、トラックをひとっ飛びでかわし、二人は疾走を止めない。

 通行人には二人の影を捉えることすら難しいだろう。


 二人がドアをブチ破り、ホットマートに駆けこんだのはほぼ同時だ。

 二人がお弁当を手に取り、開いているレジ二つに同時に並んだ。


 だが同時なのはそこまで、なんとクーちゃんの対応をしている店員のほうが、ちょっとだけレジ捌きが上だったのだ。


「なっ!?」


 歯ぎしりをして、フェンリルは牙を剥き出す。


「貴様! 殺されたくなければさっさとレジを済ませろ!‼‼」


 子供なら心臓発作で殺せる殺気で威嚇。

 店員は悲鳴をあげて、おつりで一万円札を出してからうずくまってしまう。


「よし!」


 二人同時に二つある電子レンジをそれぞれ使用。

 ここが重要だ。

 冷める前に持って帰る必要がある。

 だが自分の足に自信があれば、それほど温めなくてもいい。

 長々と温めて時間をロスするほうが圧倒的に無駄だ。


「よしっ」

「むむっ」


 フェンリルが早々に電子レンジを切ると、クーちゃんもすぐに切ってお弁当を取り出した。


「負けるか!」

「負けないであります!」


 ぶち破ったドアから飛び出し逆走。

 今度はたっちゃん達のもとへと戻る。

 ク―ちゃんの使用した電子レンジのほうが出口に少し近かった分、クーちゃんのほうがやや先行している。

 鉄橋に差し掛かると、フェンリルは歯を食いしばる。


「させねぇよ!」


 口から特大の炎を吐き出した。

 ク―ちゃんは跳躍して回避。

 鉄橋の道路と柱やワイヤーが熱で溶けて、異臭を漂わせる。

 その隙に、フェンリルがクーちゃんを追い抜かした。


「おっしゃあああ!」

「そっちがその気なら容赦しないであります! ゲイボルグ!」


 右手にゲイボルグを召喚すると、再び跳躍、空中でフェンリルにゲイボルグをなげつけた。


「喰らうであります!」


 弾丸のように放たれたゲイボルグは、一瞬で三〇発の槍に分かれて飛来。

 鉄橋を広範囲に渡って三〇の巨大な風穴が穿たれた。

 ちゅどーん!

 どかーん!

 ぼかーん!

 何台もの車がギャグ漫画みたいな玉つき事故を起こす。

 だがフェンリルは止まらない。

 何発かは当たったし、小さな悲鳴も上げたが、狼王フェンリルに致命傷は与えられない、ライダースーツの下で多少の出血はしたかもしれないが、その程度だ。

 クーちゃんとフェンリルが並んだ。


「「勝つのはあたしだぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼‼」」


 絶叫して二人は走る。

 走って、走って、たっちゃん達が見えてきて、


「「ゴールだぁああああああああああああああああああああああああ‼‼」」


 視界が傾いた。


「「へ……………………………………………………………………………………?」」


 二人の足が空を踏む。

 踏むべき地面が無い。

 たっちゃん達の目の前で崩壊する鉄橋。


 二人の戦いの影響で、積み木の城のようにガラガラと崩れる鉄橋もろとも川へと二匹の犬が落ちて行く。


 悲鳴を上げながら水没する二人に、たっちゃん達は頬をひくつかせて何も言えなかった。


 …………ぷかー


 数秒後。

 お弁当を握りしめたクーちゃんとフェンリルが、ドザエモンのように浮かんできた。

 たっちゃん、ジークちゃん、ヘラちゃんは何も言わず手を合わせて、


「「「黙とう…………」」」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る