第21話 乙女の秘密 たっちゃんの剣を盗め1

「キマイラ! ミノタウロス!」


 栄有町西部のマンション。

 エキドナ達ギリシャ神話組の部屋のリビングで、エキドナは仲間に号令をかける。


「はいですにゃエキドナ様。出撃ですかにゃ? 今度は負けないのにゃ!」


 キマイラは張り切って肩を鳴らす。


「でもわたし達だけじゃいつも負けてるも」


 キマイラと違い、相方のミノタウロスはちょっと弱気だ。


「安心しろ、今回は新しい怪物ガールを召喚した。出て来い、ヒュドラ!」

「ふぁーい……」


 リビングのドアが開く。

 姿を現したのは、ふわっふわのロリータファッションの、小柄で可愛らしい女の子だった。

 眠そうに目を細めて、ぽーっとキマイラ達を見ている。


「にゃにゃ、ヒュドラってあの」

「ヘラクレスも追い詰めたギリシャ神話最強クラスの怪物だも」

「うん、そぉだよぉ」


 間延びした、おっとり口調だった。

 ふわふわの長いウェーブヘアーを見て、キマイラとミノタウロスは思わずさわってみたくなってしまう。

 とてもではないが、最強の怪物とは思えない雰囲気である。


「さぁ行くぞ皆の者! 今日こそはあの英雄ガールズをやっつけるのだ!」

「「おー!」」


 遅れてヒュドラが、


「おぉー……」


   ◆


「というわけで勝負だ英雄ガールズ!」


 真昼間から、たっちゃん達の住むマンションの前で叫ぶエキドナ。

 たっちゃん達三人は、それぞれの愛剣を召喚して構える。

 たっちゃんは天叢雲を。

 ジークちゃんはバルムンクを。

 ヘラちゃんはマランドーズを。


「今日の相手はその子? あんまり強そうじゃないわねー」


 納得できず眉根を寄せるたっちゃん。

 エキドナは妖しく笑う。


「ふはははは、聞いて驚け、なんとこいつはあの」

「あ、ヘラちゃんだぁ。ひさしぶりだねぇ、ヒュドラだよぉ」


 ぽわぽわ笑顔で手を振るヒュドラ。

 ヘラちゃんは、目を点にして驚く。


「え、あなたヒュドラなのですか?」

「うん、そうだよぉー♪」


 ヒュドラはヘラちゃんに駆け寄ると抱きつき、頬ずりをした。


「あれからヘーラー様に天に召しあげられてうみへび座になったんだけど、ママに呼ばれて召喚されたんだよ♪ ヘラちゃんも今は人間の姿なんだ、可愛い♪」

「え、あ、うん、ありがとう。でも、わたしのこと、恨んでないのですか?」


 以前戦ったオルトロスの事をひきずっているのだろう。

 オルトロス同様、ヒュドラは英雄ヘラクレスの十二の試練の時に殺されている。

 普通は恨むだろう。


「そうだぞヒュドラ! そいつは生前の貴様らを殺した憎き相手! 慣れ合ってどうする!」


 エキドナも叱責する。

 けれどヒュドラはお人形さんのように首をかしげる。


「ほえほえ? でもママ、二千年以上も昔に済んだ事でぐちぐち言うのはいけないことだとおもうなぁ」

「はぐぅぼぁっっ!」


 エキドナが血を吐き膝を折る。


「それにヘラちゃんて最後はわたしの毒を奥さんに盛られて死んじゃったんだよね? じゃあもうわたしはそれでいいよ」


 ヒュドラの純真過ぎる眼差しに、エキドナは地面に突っ伏して震えた。


「あれれ? どうしたのママ? ひなたぼっこなら仰向けに寝ようよぉ」

「にゃー、ヒュドラちゃん」

「今はそっとしておいてあげたほうがいいも」

「えぇ、なんでぇ?」


 だがエキドナは、がばりと立ち上がる。


「どうせ私は陰湿で根暗でしつくい蛇女ですよ!」


 エキドナは涙目で、


「ぬはははははっ! キャリア二千年以上の超ベテラン魔王の力を見せてくれるわぁ!」


 キマイラとミノタウロスは、温かい目でエキドナをみつめた。


「さぁやれヒュドラ!」

「あ、ふぁーい。じゃあごめんねヘラちゃん」


 ヒュドラはちょっと距離を置くと、可愛らしいお口を開けた。


「ポイズンブレぇース」


 ヒュドラが、冬の日のように白い息を吐いた。

 その煙は消火器のような量と勢いでたっちゃん達に迫る。


「大変です二人とも、早く逃げっ」


 ヘラちゃんの言葉を無視して、たっちゃんは疾走。

 毒霧の中を突き進み。


「裸王斬!」


 ヒュドラのロリータ服が切り裂かれて、可愛らしい肢体……と思いきや以外にふくよかな胸が、プリンのように揺れた。


「ふわわぁ、はだかんぼだよぉ」

「なな、なにぃっ!?」


 エキドナに剣をつきつけ、たっちゃんが笑う。


「へっへーんだ、どうするー?」

「くそ、撤退だ!」


 エキドナ達は尻尾を巻いて逃げだした。

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