第22話 乙女の秘密 たっちゃんの剣を盗め2
自宅で、エキドナ達は作戦会議をする。
「おかしいわねぇ、どうしてヒュドラの毒が効かなかったのかしら?」
ソファに座るエキドナの膝の上で、ヒュドラはクッキーをかじりながらエキドナに体重を預ける。
事実親子なのだが、まさしく母と娘のほほえましい光景に見える。
「も? そういえばエキドナ様。確かたっちゃんって、お花見の時セイレーンの歌が聞いていなかったんじゃあ」
「む、そういえばそうだな。私は怪物の女王であるからして、怪物の特殊能力は効かないが、何故ヤマトタケルの奴はセイレーンの歌が効かなかったのだ?」
エキドナはアゴに手を当てて悩む。
「にゃ、やっぱり英雄は精神力が強いのかにゃ?」
「いや、神話では英雄オデュッセウスには効いたし、花見の時もジークフリートとヘラクレスに効いただろう?」
「ますますわからないのにゃ」
考えれば考えるほど解らなくなって、エキドナとキマイラは頭を抱えてしまう。
ヒュドラは平和にクッキーを食べていた。
「と、あれ? ミノタウロスはどこにゃ?」
いつの間にか姿を消した相方を求めて、キマイラは首を回した。
「毒が効かない理由がわかったも」
廊下から現れたミノタウロスは、一冊の本を持っていた。
「その本はなんだミノタウロス?」
「迷宮(自室)にひきこもっていた時に読んでいた本の一冊『考察ヤマトタケル』ですも」
ミノタウロスが本の表紙を見せる。
エキドナ達は感心する。
「ほほう、敵の事をちゃんと調べていたんだな」
「ミノタウロス偉いのにゃ♪」
「そ、それほどでも」
ミノタウロスが照れくさそうに頬をかいた。
「それで、その本にはなんと書いてあるのだ?」
「はい、この本によると、ヤマトタケルはその生涯において無敵を誇っていました。なのに愛剣、天叢雲剣を屋敷に置いて戦いを挑んだ伊吹山の神との戦いでは呪いを受けてしまい、それが原因で死んでいます」
「私もそれぐらいは知っている。それがどうしたと言うのだ?」
「はい、それでですね、明確な記述や伝説は残っていないものの、この本の考察によると、天叢雲剣、別名草薙剣には魔を払う効果があり、それを失った為に呪いを受けてしまったのではないかと」
言われて、エキドナは頷く。
「なるほど、確かにヤマトタケルはその生涯において数えきれないほどの邪神と戦い勝利してきた英雄。なのに天叢雲を装備していない戦いでだけ邪神の呪いを受けているのか。それは興味深い」
「もぐもぐ……状態異常を防ぐ加護があったら、わたしの毒は効かないよぉ」
エキドナの膝の上でクッキーを食べていたヒュドラの解答。
それで全員が納得した。
「よし、ならば作戦は一つ!」
「もー、たっちゃんから天叢雲剣を」
「盗んでしまうのにゃ♪」
「もぐもぐ……おー♪」
◆
「ジークちゃん何買うー?」
「私は下着を」
「ヘラちゃんは帽子を見たいのです」
今日のたっちゃん達は街におでかけ中。
電車を降り、駅から外へ出ると、
「にゃにゃーん♪」
「え?」
突然上からキマイラが振って来た。
すぐ目の前に着地したキマイラはシュシュから刃を伸ばした。
「って、急に何よ! 天叢雲!」
たっちゃんはすぐに天叢雲を召喚。
するとキマイラはすぐに撤退。
背中を見せて走り去った。
「あれ? なんなのよあいつ……」
「剣を見て逃げたのでしょうか?」
「それはあいつの性格を考えると、臆病すぎるのですよ」
「うー、まぁいいや、早くデパート行こ」
たっちゃんは召喚した天叢雲剣を消すと、デパートへ向けて歩きはじめる。
だがキマイラはそれから何度も現れてちょっかいを出しては消えた。
その度にたっちゃんは天叢雲を召喚して、また消すという事を繰り返す。
デパートの前に辿り着く頃には、もう五回もキマイラと遭遇していた。
「さいならにゃーん♪」
「あーもー、本当になんなのよあいつ!」
地団太を踏むたっちゃん。
ジークちゃんは提案する。
「もういっそ帯刀してはどうですか? 現代日本なら本物だと思う人はいないでしょう?」
「ヘラちゃんも賛成なのですよ」
「うん、それもそうね、都合よく今日はベルトしてるし」
たっちゃんは天叢雲剣を鞘に収めると、そのままスカートのベルトに挿した。
物陰では、そのようすをエキドナ達が見てガッツポーズをした。
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