第23話 乙女の秘密 たっちゃんの剣を盗め3
デパートの洋服売り場で、たっちゃん達は新しい服を体に合わせていた。お互いに見せ合い、アドバイスをしあい、意見を交換する。
「じゃああたし、これちょっと試着してくるから♪」
「はい、じゃあ私はこのブラウスを」
「いってらっしゃいです。わたしはもうちょっと探すのですよ」
「うん、わかった」
たっちゃんとジークちゃんは試着室へ。
たっちゃんは試着室の中で天叢雲剣をベルトから抜いて壁にたてかけてから服を脱ぎ始める。
すると、カーテンの隙間からエキドナの手がするりと伸びる。
エキドナはカーテンの隙間から中の様子を見て、たっちゃんがこちらを見ていないのを確認しつつ、そろりと手を伸ばした。
「あと、もうちょっと」
エキドナの指先が、天叢雲に触れる瞬間。
「エキドナ、こんなところで何をしているのですか!?」
「あっ!?」
ヘラちゃんの声に、エキドナが、しまった、と凍りついた。
「エキドナ!? って、わぁっ!?」
振りむいたたっちゃんとエキドナの視線がかちあった。
「人の着替え覗いて何やってんのよ!」
「いやこれはその、ええい撤退だ!」
死に物狂いで逃げ出すエキドナ。
たっちゃんは下着姿なので追いかけられず、試着室のカーテンから首だけ出してエキドナの背中を見送った。
ジークちゃんも首だけ出してその様子を見ていた。
「彼女、たっちゃんの試着室を覗いて何をしていたのでしょうか?」
「わっかんない……」
◆
「さっきは失敗したが今度こそ」
たっちゃん達は自販機の前でジュースを飲み談笑中だ。
エキドナは新商品の看板に隠れて、たっちゃんの腰に手を伸ばす。
天叢雲剣にまた指先が触れそうになって、
「あ、そういえばヘラちゃん、さっきさぁ」
くるっと、たっちゃんが三〇度回転。
エキドナの突きだした手は剣ではなくて、たっちゃんの丸いお尻に食い込んだ。
「ひゃんっ!」
「え…………?」
たっちゃんが振りむく。
エキドナがたっちゃんのお尻をわしづかんでいる。
また二人の視線がかちあう。
「な、またあんたなの! 急に人のお尻触って何を」
「てて、撤退―!」
エキドナは背中向けて走り出す。
◆
「はぁ、エキドナの奴、いったい何が目的なのかしら?」
たっちゃん達はハンバーガーショップでハンバーガーを食べながら、今日の出来事に想いを巡らせる。
「そうですね、キマイラは見ないので戦闘を諦めたのでしょうが」
「エキドナは何がしたいのか解らないのですよ」
「ほんとよねぇ、あたしの着替えを覗いたりお尻触ってきたり……ん?」
たっちゃんは、ジークちゃんの頬が赤い事に気付いた。
「どしたのジークちゃん?」
「い、いえ、もしかしてエキドナはたっちゃんに良からぬ事を考えているのではと」
「よからぬこと?」
「その、お花見の時、たっちゃんはエキドナとキ……ゴニョゴニョしましたよね?」
「えー、それはないでしょう」
「? 何がどういう事なのですか?」
頭上に疑問符を浮かべるヘラちゃんに、たっちゃんが説明する。
「だからさぁ、ジークちゃんはぁ、エキドナがあたしの事好きなんじゃないかって言ってんのよ。もぉ、そんなのありえないじゃん。あはははは」
ジュースを飲みながら、たっちゃんは思う。
――え、まさかだよね? だってあたしら敵と味方だよ? 善と悪だよ? そんなの有り得ないじゃん。でも確かにこの前キスしたし。うわぁ うわぁ くちびるとくちびる合わせちゃったし うわぁ うわぁ そういえばあの時あいつめっちゃ取り乱してたなぁ、もしかしてあいつあれで結構純情なのかな? もしかしてキスから始まる恋ってやつなの? そうなの? もしそうだったらあたしどうすればいいんだろう。うひー、はずかしいよぉ!
「たっちゃん。顔が赤いですよ」
「ゴホッ、べ、べつに赤くなってなんかないんだからね!」
「いえ、物凄く赤いのですよ」
「赤くなんてなってないもん!」
たっちゃんはテーブルを叩きながら抗議。
残りのハンバーガーを口に詰め込んで、さっさと外に出てしまった。
◆
「まったくもお、ジークちゃんてば変な事言うんだから」
「で、ですが……」
ジークちゃんは心配と不安が混じり合った顔でたっちゃんを見つめる。
ヘラちゃんも気にしている様子だ。
「エキドナはうちの神話でも悪質な魔女なのですよ。そんなのにたっちゃんが好かれたらたっちゃんが心配なのですよ」
「うるさいなぁもう。って、もうキマイラの奴来ないなら剣しまっちゃおっかな」
たっちゃんが赤面したまま腰から剣と鞘を抜いた。
そのまま光に戻してしまおうとして……
「まってぇええええええ!」
どこからともなくエキドナが走り込んで来た。
真っ赤な顔で、死に物狂いで、全力疾走で飛びかかって来た。
「うわぁっ!?」
その瞬間、たっちゃんの脳内で様々な事がかけめぐる。
ついにきちゃったのか?
エキドナが我慢できずに強硬手段に?
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