第24話 乙女の秘密 たっちゃんの剣を盗め4


「まったくもお、ジークちゃんてば変な事言うんだから」

「で、ですが……」


 ジークちゃんは心配と不安が混じり合った顔でたっちゃんを見つめる。

 ヘラちゃんも気にしている様子だ。


「エキドナはうちの神話でも悪質な魔女なのですよ。そんなのにたっちゃんが好かれたらたっちゃんが心配なのですよ」


「うるさいなぁもう。って、もうキマイラの奴来ないなら剣しまっちゃおっかな」


 たっちゃんが赤面したまま腰から剣と鞘を抜いた。

 そのまま光に戻してしまおうとして……


「まってぇええええええ!」


 どこからともなくエキドナが走り込んで来た。

 真っ赤な顔で、死に物狂いで、全力疾走で飛びかかって来た。


「うわぁっ!?」


 その瞬間、たっちゃんの脳内で様々な事がかけめぐる。

 ついにきちゃったのか?

 エキドナが我慢できずに強硬手段に?

 あたし襲われちゃう?

 ジークちゃんとヘラちゃんがカットに入ったのは、その時だった。


「たっちゃんは渡しません!」

「たっちゃんは私達が守るのですよ!」


 ジークちゃんがたっちゃんをかばうように抱き寄せる。

 ヘラちゃんが小さな腕をめいっぱい広げてエキドナの前にたちはだかる。

 たっちゃんの顔が熱くなる。


「え? ふたりとも?」

「ちょっと邪魔しないでよ!」


 エキドナがヘラちゃんと揉み合う。


「たっちゃんは渡さないのですよ!」

「そうです! たっちゃんが欲しければ私達を倒してからにして下さい!」


 ジークちゃんがよりいっそうたっちゃんを抱き締める腕に力を込める。


「はぁ? 別にタケルなんて」

「エキドナ!」


 たっちゃんは声を張り上げる。

 エキドナは言葉を吞み、たっちゃんの方を見た。


「えと、えと……」


 たっちゃんは顔が熱くて、汗をいっぱいかきながら目を固く閉じて、それでも叫んだ。


「きっ、気持ちは嬉しいけどあたしあんたとは付き合えないから!」


 美少女達のいさかいに、ただでさえ人目を引いていたが、とうとう周囲の客達がエキドナに同情的な目を向けた。

 今、エキドナはフラれた女になったのだ。


「って、ええええええええええええええ、何言ってんのよあんた、私は別にっ」

「とにかくごめんっ!」


 たっちゃんはジークちゃんとヘラちゃんの手を取り逃げ出した。


「あっ、ちょっ」


 エキドナも全力疾走。

 デパートを飛び出し、外で追走劇が始まった。


「うわわわわわっ!? エキドナが、エキドナが追いかけて来るよぉ!」

「なんてしつこい女でしょう!」

「ああいう女はモテないのですよ!」

「まちなさーい!」

「まてないよー!」


 身体能力はたっちゃん達のが上。

 どんどん引き離されるエキドナはとうとう。


「私の目的は天叢雲のなのよぉー!」

「「「え?」」」


 ようやくたっちゃん達は止まり、エキドナは肩で大きく息をしながら両手をひざにつけた。


「ぜぇ ぜぇ はぁ はぁ ごほっ、うっきもちわる……」


 息も絶え絶えに嗚咽を漏らすエキドナは疲れ果てた顔で、


「だーかーらー、もう……あなたにヒュドラの毒が効かないから、ごほっ」

「あー、なんだ、そういう……」


 たっちゃんは息をついて安堵する。


「じゃあはい、ヘラちゃん持ってて」

「はいなのです」


 たっちゃんが、天叢雲をヘラちゃんに手渡すのを見ると、エキドナが歓喜する。

 エキドナはいつもの、悪の女幹部風の声を作った。


「よし、今だ! 皆の者やれぇ!」

「はいにゃ♪」

「もー!」

「ふぁーい、ポイズンブレース」


 キマイラ、ミノタウロス、ヒュドラ登場。

 ヒュドラは毒霧を吐くが、


「どっせぇーい!」


 たっちゃんは大きく跳躍。

 毒霧を大きく飛び越えて、空中で叫ぶ。


「天武雲剣!」


 その手に王剣を召喚。ヒュドラの後ろに着地した。


「裸王斬!」

「いやぁぁん!」


 ヒュドラの服が斬り裂かれて、全裸になってしまう。

 玉のようなつるつるの肌を、慌ててミノタウロスとキマイラが隠してあげる。


「なな、なんだそれはぁ!?」


 驚愕するエキドナに、たっちゃんは剣の切っ先を向ける。


「これぞあたしがクマソタケルを殺す時、尻にブッ刺した剣、天武雲剣よ!」


 エキドナは小さな悲鳴を上げて自分のお尻を押さえる。

 互いに抱き合って震えるヒュドラ達を見下ろし、


「みんな仲良く」


 たっちゃんは剣の側面を向けてゴルフパッドのように振るった。


「飛んでけぇ!」


 剣の刃では無い、面の部分が、キマイラの可愛らしいお尻を叩いた。

 三人まとめてエキドナの下まで吹き飛び、そのまま全員走って逃げてしまった。


「ふぅ、やれやれ」

「「たっちゃん」」


 ジークちゃんとヘラちゃんが駆け寄って来る。


「えへへ、勝ったよ♪」

「はい、でもそんな剣持ってたんですね」

「知らなかったのですよ」

「はは、まぁね、それよりも、さ」


 たっちゃんは、ちょっと嬉しそうに頬を染めながら二人を見る。


「さっき、二人とも言ってたよね、たっちゃんは渡さないとか」

「「あ」」


 ジークちゃんとヘラちゃんがはにかむ。


「あたしが取られちゃうと思ってあせった? ねぇあせった?」


 いじわるな顔で自分達の顔を覗き込んで来るたっちゃんに、ジークちゃんとヘラちゃんはそっぽを向く。

 でも二人の表情を見れば、本音は一目瞭然だ。


「へへ」


 たっちゃんは、ジークちゃんとヘラちゃんの首に抱きついた。


「アイスおごってあげる♪ 行こ♪」


 たっちゃんは、はじけるような笑顔で二人を抱きしめる。

 ジークちゃんとヘラちゃんも、嬉しそうに笑っていた。


   ◆


 一方。マンションのエキドナ達の部屋では……


「にゃ~……タケルメェ~」


 キマイラは下半身丸出しで、パンツもはかずにリビングのソファでうつぶせに寝ていた。

 ぱんぱんにはれ上がった赤いお尻には、氷水入りのビニール袋が乗っている。

 エキドナは歯噛みして、


「くぅ~、おのれヤマトタケル! 次こそは、次こそはぁああああ!」


 エキドナの声が、空しく部屋にしみわたる。

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