第40話 春の思い出、エイプリルフール1


 これはまだ、たっちゃんことヤマトタケルが、ジークフリートやヘラクレスと出会う前の物語である。


   ◆


「ええええええええ!? ちょっとマスター! それってどういう事よ!」


 ある三月の昼。

 あたしは家の固定電話越し抗議した。


「ジークフリートとヘラクレスって、日本はあたしとマスターで守るんじゃないの!? あたしずっとそのつもりだったんだけど!」


 でもマスターは敵の強さを強調して、一人じゃ大変とかそんなことを言う。


「あたしは大丈夫よ! あたしはあの日本神話最強の英雄、ヤマトタケルなんですからね! 他の神話の英雄に頼らなくったって」


 マスターはあたしの文句をのらりくらりとかわしながら、あたしをまるめこもうとしてくる。


 卑怯だ。


 マスターに優しくお願いされたり、まして、あたし自身が危険とか、あたし自身のことを気づかうような事を言われたら嬉しくなって、機嫌が良くなって、OKしちゃうにきまっているのに。


 マスターは計算なのか天然なのか、いや、あの激ニブ天然タラシのことだ、きっと無意識だろう。


「う~、わかったわよぉ……はい、はい……うん、わかった……じゃあ」


 あたしは電話を置いてその場に立ちつくす。

 マスターの顔を思い出して、頬を膨らませて、膨らませた頬を手でつぶす。

 口の先から空気が漏れた。


「マスターのバカ……」


   ◆


 次の日、そいつらはすぐに来た。

 部屋のチャイムが鳴って、重い足取りでドアを開けると、二人の女の子がいた。


「始めまして、ドイツから来ました、ジークフリートです」

「あ、どうも」


 うわぁ、なんかきたぁ……

 ジークフリートを見て思う。

 なんなのよこいつ。


 めっちゃ美人じゃん、超髪綺麗じゃん。何よ銀髪って、ゲームや漫画のキャラじゃあるまいし。


 顔なんてフランス人形みたいに整っているし、ていうか何よそのメロンみたいなおっぱい!


 卑怯だ、なんか卑怯だ、卑怯過ぎる。


 マスターだって若い男なんだから、そんなの見せられたらたまったもんじゃないわよ。


 きっとこの爆乳でマスターをたらしこむ気なんだ。

 マスターをおっぱい星人にする気なんだ。

 あたしとマスターの愛の巣をおっぱいでかき乱す気なんだ。


 くそぉ、誰がそんな事させるもんか。


「ギリシャから来たヘラクレスなのですよ」


 うわ、何この子。

 ちっちゃい、可愛い、金髪?

 なんなのよこの子卑怯じゃないこんなの。


 だってこんなに、イイ感じに小柄で可愛くて、やわらかい髪でくりくりの瞳で、もうなんなのよ。


 きっとこの可愛らしさであたしのマスターをロリコンにしたてあげてたらしこむ気なんだわ!


 きっとそうよ、ええそうよハイ決定、もう決定!

 誰がマスターをロリコンにするもんですか!

 あたしだって可愛いもん。

 あたしだって髪綺麗だもん。


 でも、でも、うぅ、あぁ……


 銀髪爆乳美女と金髪キュート少女って……むむむ、マスターはおっぱい星人でもロリコンでもないもん!


「あの?」

「はっ……え、あ」


 ジークフリートが、不思議そうな顔であたしを見ている。


「上がってもよろしいでしょうか?」

「あ、ああはい、どうぞ」


 あたしはパニクって、ぶざまな姿を見せてしまう。

 きっとこれもジークフリートの策謀に違いない。

 うん、そうだ。

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