第18話 お花見後編 怪物ガールズ総攻撃1

『アンコール アンコール アンコール』

「はーい、それでは皆さんのアンコールに答えましてもう一曲ぅ♪」

『いえぇーい!』


 日が沈んだ月の下。

 お花見は夜桜タイムへ突入。

 踊れることが分かったたっちゃんは町の人気者でずっと躍りっぱなしである。

 対してジークちゃんは、ヤケ酒のようにしてカルピスを濃くして吞んでいる。


「う~、またマスターがどこかへ行ってしまいました……」


 しょぼん、と肩を落とすジークちゃんに、ヘラちゃんが寄りそう。


「罰ゲームで町内三週してから神社でおみくじ引いて戻って来るって、いくらなんでも酷過ぎるのですよ」

「その上、我々が手を貸さないようついていくのが禁止とは……」


 普段のクールな表情はどこへやら、ジークちゃんは目に涙を浮かべながら、恨めしそうに夜空を見上げた。


「ぐすん……」


   ◆


「ええい忌忌しいやつらめぇ!」


 少し離れたところで、懲りもせずにまたエキドナが悔しそうに歯を食いしばる。

 一度家に帰って新しい服を着ているので、もう全裸ではない。


「にゃ~、エキドナさまぁ、今日はもう諦めるのにゃ~」

「も~、今日はおとなしく引きさがるも~」

「うるさーい! 一回くらいお花見をじゃましてやらんと悪の名折れだ! そのために」


 エキドナは仲間達を手で指した。


「マンションに帰って全員総出できたのであろう!」


 そこに並ぶのは、

 イシュタル。

 フンババ。

 ロキ。

 の三人。

 当然先程のハーピーとセイレーン、さらに前回のオルトロスもいる。


「オーホッホッホッホッ! 今度こそは、このイシュタル様の実力を見せつけてあげますわ!」

「ばおーん」

「ボクがやられっぱなしなんてありえない。絶対にぎゃふんと言わせてみせるのさ!」

「その意気だ。さぁ、今度こそは英雄ガールズに目に物を見せるぞ!」


 エキドナ、イシュタル、ロキ。

 ギリシャ神話とメソポタミア神話と北欧神話の魔王が拳を天に突き上げる。


「「「えいえい、おー!」」」


   ◆


「ん? ねぇジークちゃんヘラちゃんあれ」


 たっちゃんが指をさした方を見ると、エキドナ達がぞろぞろ歩いてくる。

 エキドナ。

 キマイラ。

 ミノタウロス。

 オルトロス。

 ハーピー。

 セイレーン。

 イシュタル。

 フンババ。

 ロキ。

 総勢九人がそろって登場する。


「またあんたら」

「今日はこれで、二度目ですね」

「いい加減しつこいのですよ!」


 たっちゃん達は前に進み出て、エキドナ達と対峙。

 エキドナ達は戦争態勢に入り、今にも襲い掛かってきそうだ。


「さぁ行くのだ! 今度こそ遠慮はいらない! 英雄ガールズ共を」

「おいみんなー、またきれいなねーちゃんたちが来たぞー」

「おー、さっきの人達だ」

「こっちの双子ちゃん、商店街で見たわよ」

「さぁさぁ、そんなところ立ってないでこっちに」

「え? え? ちょっ、わぁっ!」


 エキドナ達はそれぞれ町の人達に引き込まれて、敷物の上に座らされて行く。


「うわー、お姉ちゃんおっきー」

「お姉ちゃんきれー」

「ばば、ばおん?」


 フンババはちびっこ達に大人気だ。

 両腕に抱きつかれ、膝の上に子供が乗り、背中にも子供たちがじゃれついている。


「ばお~ん」


 無表情のまま、頬をぽーっと赤くするフンババ。

 小さくて可愛い子供達に囲まれて幸せそうだ。


「外人さんは変わった格好してるのねぇ」

「これはゴスロリって言うのさ」

「へぇ、これが、聞いた事はあるけど見たのは初めてだわ」


 ロキはロキで、ゴスロリファッションが人目を引いているようだ。


「ええい何をやっている貴様ら、さっさと戦いを」


 エキドナは周囲を見ると、キマイラ達は皆、楽しそうに遊び、話し、お弁当を食べている。

 エキドナはちょっと困った顔になって、考えて、仕方ないわね、とその場に座った。

 そんなこんなで、人外ガールズ達は皆、ある意味で無力化されている。


「あれー?」

「どうやら、私達の出番は……」

「ないようなのですよ……」


 やんややんやと楽しくバカ騒ぎをする人達を見て、たっちゃん達は唖然としてしまった。

 その時、誰かが言った。


「ねぇ、誰か王様ゲームとかしなーいー」

「花見でやることじゃないでしょもう」


 だが、エキドナの目がきらりーん、と光った。


「はい! 私やります!」

「あれ、外人さんは王様ゲーム好き?」

「いえ、やったことがないので是非日本文化に触れるべく」


 どの口が言う、とたっちゃんは突っ込んだ。


「じゃああたし達と」

「いえ、我々は」


 エキドナがつかつか歩み寄ってきて、たっちゃんの肩をつかむ。


「彼女達とします!」

「えええええええええええええええええ!?」

「いいわねぇ」

「美少女だらけの王様ゲームだー!」


 酒に酔ったおばちゃんやお姉さん達が調子に乗って王様ゲームの準備を始めてしまう。


 割り箸に書くマジックペンなかったので、メモ帳に鉛筆で数字と『王』という字をかきこんでいく。


 とてもではないが、断れる雰囲気ではない。

 エキドナは、邪悪な笑みを浮かべた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る