第37話 春の入学式、ぴかぴかの一年生1


「たっちゃんたっちゃん」

「んー? どったの?」


 ある日の朝。

 ヘラちゃんがベランダで下を見ながらたっちゃんを呼んだ。


「あれはなんなのですか?」

「あれ?」


 たっちゃんが見ると、マンションの前の道には、ランドセルを背負った子供達が何人も歩いている。

 それも、全員母親と思われる人と一緒だ。


「あー、新一年生だね、今日は小学校の入学式だから」

「そうなのですか? でもどうしてみんな同じものを背負っているのですか?」

「あれはランドセルだよ」

「ランドセル?」


 と、聞き返したのは、ジークちゃんだ。

 いつのまにかベランダに出て、ぴかぴかの一年生たちを珍しそうな目で見下ろしている。


「ギリシャやドイツにはないの? 日本はランドセルって言って、小学生の間は全員同じ背負い鞄を使うんだよ」

「全員同じ!?」


 驚くヘラちゃん、ジークちゃんは冷静に、


「制服もですが、本当に日本は統一感を重視するのですね……」


 言って、ヘラちゃんとジークちゃんはなおも小学生達を眺め続ける。


「日本の入学式とはどんなものでしょうか?」

「興味がありますね」


 今度はそんな事を言って、また黙って見下ろし続ける。


「…………」


 たまらず、たっちゃんが切りだした。


「じゃあ小学校行ってみる?」


 ヘラちゃんとジークちゃんの視線がたっちゃんに向いた。


「「いいのですか?」」

「二人とも外人さんだし、日本文化の勉強とかそれっぽいこと言えば入れてくれそうじゃない? 日本人のあたしが保護者ってことになればいいし」

「ありがとうなのですよたっちゃん」

「持つべきものは日本人の友達ですね」

「う~ん、それは複雑な気分……」


   ◆


「おー、これが」

「入学式」


 ヘラちゃんよりもさらに小さい子供達がぞろぞろと吸い込まれていく校門。

 当然、母親達も一緒にである。

 ちなみに今はクーちゃん達も誘ったので六人だ。


「こうして見ると、まるで軍学校に徴兵される子供達のようなのですよ」

「この中の何人がりっぱな少年兵になれるか」

「子供時代を思い出すであります」

「まっ、あたしのガキ時代にゃかなわいだろ」

「ふふ、愚民がゴミのようだわ」

「ちょっ、みんな頭の中が古代に戻っているから! ペルちゃんのはただの罵倒!」


   ◆


 たっちゃん達は玄関に入ると、客人用の下駄箱からスリッパを取り出した。

 その間にたっちゃんが守衛さんと交渉する。


「ていうわけで、見ての通り外人さん組なんですよねぇ。日本の入学式を見たいって言って、あ、ちなみにギリシャ人三人、ドイツ人一人、アイルランド人一人とあたしの六人です」

「いいよいいよー」


 守衛のお姉さんが、こころよくOKしてくれる。


「ほんとですか! やりぃ♪」


 守衛のお姉さんははぁはぁしながら、


「うふふ、美少女に悪い人はいないもの」


 お姉さんに捕食者の目で見られて、ヘラちゃん達が身震いした。

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