第38話 春の入学式、ぴかぴかの一年生2
「少子化って言っても、やっぱり結構いるわね」
たっちゃんが手の平でひさしをつくるようにして体育館を見渡した。
入学式は新一年生とその親、さらに教員全員が参加するので一五〇人ぐらいはいるだろう。
ジークちゃんが、上のキャットウォークに気付く。
「たっちゃん、あの階段から上の通路に行けそうですよ」
「おっ、キャットウォーク。じゃあちょっと上から観賞しよっか」
たっちゃんの提案で、六人は階段を上り、体育館の壁に沿って作られた手すり付き通路へと移動。
そこにはカメラを持ったお父さん達やお母さん達がハンターの眼差しで我が子を狙っていた。
「○○ちゃーん、こっちよー」
「●●―! 最高だぁー!」
中には何かの宗教に目覚めているのではと思うような人もいる。
子供にこれだけ熱狂的になれるのなら、ある意味幸せだろう。
「それにしても、この子供達がこれからどのような少年期を過ごすのか楽しみですね」
ジークちゃんの言葉に、たっちゃんが返す。
「うーん、でも最近は少子化のせいで子供に構い過ぎる親とかが問題になっているから、不安もあるよねぇ」
ク―ちゃんが、
「ですがしっかりとしつけないと、騎士にしてくれないという理由で城中の剣と槍と戦車を壊してしまう子供がまたいつ出るとも」
「それは貴方だけです!」
ペルちゃんが、
「ふっ、最近は英才教育とかお受験教育とかあるらしいし、まぁ凡人が何をしても無駄だと思うけれど」
「英才教育? あー、あれ大変だよねぇ」
「え?」
たっちゃんの頷きに、ペルちゃんが素になる。
「あたしのお父さんヘッドハンティング好きだし、国や隣国中から集められた家庭教師集団とか本当に大変だったよ」
「ヘラちゃんもケイローン先生預けられるまで大変だったです」
「それぞれの先生が自分の思想に染めようとしますよね」
「自分は戦士の修業は好きでありましたが学問の授業が嫌いだったであります」
ペルちゃんの顔が水分を失う。
忘れていた、彼女達が全員皇族王族であるという事を。
「「「「ねっ」」」」
同意を求められて、ただ一人漁師の子として育ったペルちゃんは、ダイヤモンドのように硬い笑顔で頷いた。
厳密にはペルセウスも王族だが、生まれてすぐに海に流され漁師に拾われたのだ。
アキちゃんは、
「う、うん! そうだよな! ほんと大変だよな! 王族に生まれていいことなんてないよ!」
「アキちゃん! あんたもすぐケイローンに預けられて王族教育受けてないでしょう! 自分だけズルイわよ!」
「おまっ、そういう事言うなよ!」
「あれ? 外国の方ですか?」
近くの、お母さんと思われる女性が話しかけて来て、たっちゃん達の視線が集まる。
「ああはい、この子達はあたしの友達で、日本の入学式を見たいって言うから」
「へぇ、そうなんですか」
人の良さそうな笑顔で女性は、部外者のたっちゃんと話してくれる。
「でも貴方達もきっと、そう遠くない未来でお母さんになったら、きっと見学じゃなくて保護者として参加して、そうしたらきっと感動するわよ」
女性は目を細めて、手すりに手をかけて体育館の子供たちへ視線を投げる。
「でも本当に心配だわ、昔の人は可愛い子には旅をさせろとは言うけど、一人娘だからつい過保護になってしまうのよ」
ジークちゃんが、
「確かに、私達の時代は基本、旅に出ましたね」
たっちゃんが、
「出たっていうか出させられたって言うか……」
「? みなさんの家は厳しい教育方針だったんですか?」
英雄ガールズはそれぞれ、思い思いの表情をする。
たっちゃんが、
「父さんに叛旗翻したお兄ちゃん殺したら九州勢力シメてこいって追い出された」
「九州をシメる!?」
ジークちゃんが、
「ニーベルンゲンとの抗争に駆り出されました」
「ニーベっ、どこの組織の名前!?」
クーちゃんが、
「番犬殺した代わりに自分が番犬になりました」
「幼児虐待!?」
ヘラちゃんとアキちゃんが、
「「山のケイローンに預けられた」」
「山男に!? それどういう教育!?」
ペルちゃんが、
「不貞の子だからって海に捨てられたわよ」
「旅じゃなくてそれ児童遺棄!」
たっちゃん達は皆、自分達は何か変な事を言っただろうかと首を傾げる。
さっきまでほんわかしていた女性は全身を凍りつかせながら震えた。
――なんておそろしい子達なの!? きっと極道や外国マフィアの生まれなのね。カタギのあたしが関わっていいことなのかしら?
「みみ、みなさん大変なんですね、そっちの世界の事は私のようなカタギには解りませんがお気を付けて」
『?』
「なっ、貴様ら!?」
たっちゃん達が振り返ると、そこにはエキドナ、イシュタル、ロキ達が勢ぞろいしていた。
うしろには、キマイラやミノタウロスなどの仲間もいる。
「あっ、なんてあんたらがこんなところにいるのよ!」
「わ、私達はその、みんなが日本の入学式がどんなものか見てみたいって言うから、ってそうではないわヤマトタケル! ここであったが一〇〇年目! 覚悟するがいい!」
さっきの女性が背伸びをして覗いてくる。
「知り合いですか?」
「ええ、まぁ……ていうかエキドナ! あんたらみたいな悪党が神聖な入学式なんか見にきてんじゃないわよ! 子供たちの教育に毒でしょ!」
ヘラちゃんたちも『そうだそうだ』と同意。
「なんですって! あんたらもただの正義の名を借りた人殺しのくせに!」
「なんですってぇ!」
そして始まる英雄ガールズと人外ガールズ達の言い争い。
「ヒッポリュテの腰巻欲しさにヒッポリュテ殴り殺した極悪人が!」
「うっさいのですよ! また子供達皆殺しにしますよ!」
「自分が生き残る為に愛人を生贄にした外道が!」
「あんたなんかいろんな男に手ぇ出してはボロ雑巾のように捨てるじゃない!」
「前妻だまして他の男とくっつけて不幸にした野郎は学び屋から出て行くんだね!」
「目の見えない盲人を騙して人殺しさせた人に言われたくありません!」
「グライアイ三姉妹の眼球と歯を奪うなんて鬼畜過ぎますわぁん❤」
「あんただって何人の男を巣に連れこんで殺したか言ってみなさいよ!」
互いの言い争いが進めば進むほど、先程の女性の顔が恐怖に歪んで行く。
――ひぃっ、やっぱりこの子達はマフィアのっっ!
「すす、すいません、もう私帰りますね、ではさいならー」
女性は慌てて駆けだす。
後に残されたたっちゃん達は、
『え? 子供の入学式は?』
と首を傾げてしまう。
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