第11話 お花見前編 超絶可愛い双子姉妹 キュートなわんちゃんオルトロス1


 ある日の昼過ぎ、商店街。


 平日だがこの時間帯になると、周囲は学校帰りの学生もちらほら目立つ。

商店街はいつも以上に賑わい活気にあふれていた。


 夕飯の買いだしにきた主婦。

 買い食いをする学生。

 八百屋や魚屋のおじさんの元気のいい声が気持ち良い。

 黒髪美人のたっちゃん。

 銀髪美人のジークちゃん。

 金髪可愛いヘラちゃん。

 この三人は買い物のメモをポケットにいれ、並んで歩いていた。

 その足取りは実に軽い。


「いやぁ、楽しみだね明日のお花見」

「花を見ながら酒宴とは、日本はシャレていますね」

「初めてのお花見楽しみなのですぅ」


 笑顔に満ちた三人の姿は男性のハートをもれなく射ぬく。

 勇気があるものならばナンパせずにはいられない。

 彼女達は全ての男性、いや羨望という意味では女性の目すら熱くする。

 もっとも今、彼女たちに注がれる熱い視線はまったくのべつもので……


   ◆


 こっそりと後ろから尾けるのは三人。

 エキドナ。

 キマイラ。

 ミノタウロス。

 の、三人だ。

 なんともへたくそな尾行で、電柱の陰に身を寄せ合って隠れ、首だけ出している。


「にゃ~、エキドナさまぁ、あいつらとっても楽しそうですにゃあ」

「おのれ~、あの楽しそうな顔をすぐメッタメタのギッタギタにしてくれるぅ!」

「も~……でも普通に戦ってもあの人達には勝てないも。も~、迷宮に帰りたいも……」


 何故か今日はメガネをかけているミノタウロス。

 彼女の言葉に、エキドナは不敵に笑った。


「ふふふふふ、安心するがいい二人とも、この私に考えがある」

「「考え?」」

「そうだ」


 エキドナは電柱に隠れるのも忘れて、堂々と大きな胸をばいん、と張って突き出した。


「このギリシャ一の知将、エキドナ様は今回、あらたな怪物ガールを用意した。それがあの!」


   ◆


「さーて、場所取りをしてくれているマスターの為にも、うん?」


 たっちゃんは急にミニスカートを引かれて立ち止まる。


「なんだ?」


 振りかえって下を見ると、白い帽子をかぶった女の子が二人いた。

 ヘラちゃんよりもちっちゃい。

 明らかに小学校低学年だろう。

 雪のように真っ白な純白の髪。

 海のように青いつぶらな瞳。

 ぷにぷにのほっぺ。

 たっちゃんは思わず。


「きゃ、きゃんわぃいいいい♪」


 たっちゃんの悲鳴に、ジークちゃんとヘラちゃんも振りかえる。


「あっ、かわいい♪」

「ふむ、知らない子ですね、どうしたのですか?」


 女の子達は双子らしい。

 顔はまったく同じで、二人とも長い髪を首元で二つにしばったタイプのツインテールだ。

 髪を縛るゴムが、一人は赤くて一人は青い。

 そんな幼女二人が目に涙を溜めて、今にも泣きそうな顔をしている。


「あのねぇ、あのねぇ、あたし達ねぇ、迷子なの」

「ママがねぇ、いなくなっちゃったのぉ……」


 庇護欲をくすぐる殺人的な眼差し。

 たっちゃんとジークちゃんはメロメロになって二人の頭をなでなでした。


「そ、そうなんだ、じゃあ交番に行こっか」

「我々が案内してさしあげます」


 でも幼女達は首を横に振る。


「だめぇ、いっしょにさがしてぇ」

「おねえちゃん、いっしょにさがしてぇ」

「いやあたしたちは」

「買い物が」

「「おねえちゃぁん」」


 幼女の視線が、たっちゃんとジークちゃんのハートを射ぬいた。

 ただ歩くだけで無自覚に男性のハートを射ぬいてしまう二人だが、今回は射ぬかれる側であった。


「じー……」


 でも一人、ヘラちゃんだけはちょっと不思議そうなジト目で首を傾げている。

 幼女二人の肩が、小さく震える。


「ど、どうしたのおねぇちゃん」

「あたしたちの顔になにかついている?」


 ヘラちゃんはますます首を傾げながら、


「いえ、どこかで会った事があるような気がしたのですが」


 幼女二人の肩がびくりと跳ねあがった。


「気のせいのようです」


 にぱっと笑うヘラちゃん。

 幼女二人は安堵のため息をついた。


「そういえばお譲ちゃん達お名前は?」


 たっちゃんの問いに、二人の幼女は元の笑顔に戻る。


「あたしオルっていうの」

「あたしは妹のロスなの」


 赤い髪ゴムをしているのが姉のオル。

 青い髪ゴムをしているのが妹のロスらしい。


「そっか、じゃあ一緒にママを探そっか」

「「うん♪」」


 オルとロスは互いに手を取り合い頬を合わせて笑顔になる。


「二人とも仲いいんだね」


 たっちゃんに言われて二人は、


「「うん♪」」


 と頷いた。


「いいよねぇ、やっぱり双子は仲良くないと」


 たっちゃんは妹のロスへ、


「ロスちゃん、この先もしもお姉ちゃんが親の愛人を寝取るようなことがあってもお姉ちゃんを殺しちゃいだぁああ!」


 ジークちゃんのチョップが、たっちゃんの脳天を打ち抜いた。


「貴女は子供に何を言っているんですか!」

「だってオルちゃんがオオウスお兄ちゃんみたいな事したらと思うと」

「それで殺すのは貴女だけです!」

「いえ、でも双子が仲良くあるべきって言うのは賛成ですね。わたしなんて双子の弟を狙う二匹の毒蛇を握りつぶして助けました」

「それは素晴らしい思い出ですね。一緒に森で遊んだ思い出ですか?」

「いえいえ」


 ヘラちゃんは無邪気な笑顔で、


「生まれた日に女神ヘーラー様がわたし達を殺そうと蛇をさしむけたので、生後八時間の足で蛇に駆け寄り握りつぶしました」

「「波乱万丈過ぎる!」」


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