第10話 いたずらっ子? トリックスターロキちゃん!3
ロキの中で、何かが音を立てて崩れた。
それはまるで、自分をビッグスターと信じる人が街中で『あんた誰?』と言われたようなもので……
「うぐぐぐぐ、お前ら全員こうしてやるー!」
パチン
ロキが指を鳴らすと、途端に駐車場のアスファルトを貫き無数のツタが伸びて来る。
「うわわわわわわ!」
「なんですかこれは!」
「う、動けない」
ツタは三人の体に絡みついて、四肢の動きを封じ、胸のふくらみに巻きつき股間に張り付き、ほとんどエロゲのような光景が展開される。
三人の甘い声が駐車場に響く。
イシュタルとの戦いを思い出した三人は、なんとか意識を集中して愛剣を呼び出すが、
「ロキちゃんマジック♪」
またロキが指を鳴らす。
たっちゃん達の頭上から突然バケツをひっくりかえしたような水、のように見えるローションが降り注いだ。
すぽーん
ローションで滑り、三人の手から、伝説の剣がすっぽぬけた。
「あー! あたしの天叢雲!」
「私のバルムンクが!」
「わたしのマランドーズー!」
舞い上がった三本の剣は伸びたツタがキャッチ。
三人は丸腰になってしまう。
「へっへーんだ。そしてこれが何かわかるかにゃ~?」
ロキの手の平に、三つのイチゴが乗っている。
真っ先に反応したのはヘラちゃんだ。
「そ、それはまさか!?」
「そうそう、君達のショートケーキの上に乗っていたイチゴだよ、それを」
ぱくんっ もぐもぐもぐ
「あわわわわわわ」
口をぱくぱくさせるヘラちゃんの前で、ロキは満面の笑みを作った。
「あーおいしい♪」
「く~、とことん嫌なやつねぇ」
「どうやら我々への精神攻撃のつもりのようです。相変わらず性格の悪い」
「でもどうするジークちゃん、ツタを斬ろうにも剣が」
「くっ、仮にも北欧神話の魔王、このツタは素手で千切るには、ん?」
たっちゃんとジークちゃんがふと見ると、ヘラちゃんの様子がおかしい。
「っっっっっっっっ、よくも、よくもわたしのイチゴちゃんを~」
青い両目を地獄の業火のように燃やし、全身から熱気が噴き上がっている。
ツタがぎちぎちと音を立てて、ロキが笑う。
「無理無理。そのツタは超硬合金よりもずっと頑丈で」
「イチゴぉおおおおおおおおおおお!」
ぶちぶちぶちーんっ!
「へ?」
ロキの目が点になった。
「ふんっ!」
地面に着地したヘラちゃんは真っ直ぐロキを見据え、猛牛のように突進した。
「わたしのぉおおおおおおおおおお!」
「ロキちゃんマジック!」
ロキが指を鳴らすと地面がせり上がり、岩の壁がヘラちゃんの行く手を遮り、
「ショートケーーキのぉおおおおおおおおお!」
岩の壁が崩壊、ただの突進でヘラちゃんは貫通した。
「なな、じゃあ、ロキちゃんマジック!」
ネズミの大軍が周囲から湧きあがり、一斉にヘラちゃんに飛びかかる。
「イぃいいいいいいいいチぃいいいいいいいい!」
だがヘラちゃんの全力疾走は一ミリも減速せず、手足の振りだけで使い魔であるネズミの軍勢は蹴散らされている。
「のわわ、ロキちゃんマジック!」
ヘラちゃんの周囲が沼地に変化。
ヘラちゃんは足を取られる。
「ゴぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
地面に蹴りの一発でヘラちゃん周辺の沼地が衝撃でクレーターに変化。
沼は消滅した。
「ロロロ、ロキちゃんマジックぅー!」
ロキの体が真上に飛んだ。
魔法の力で上空五〇〇メートルまで飛んだロキ。
対するヘラちゃんは、純然たる脚力だけで垂直飛びをして、ロキと並んだ。
「はわわわわわわわわわわ!?」
「かぁあああああああえすのですぅうううううううううう!」
ヘラちゃんの、何の特殊能力も無い、ただのパンチがロキの腹にめりこんだ。
「おぶるぼぉおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ロキは夜空の彼方にカッ飛んで行き、お星様になった。
「ちょっ、ロキ、アナタという人はワタクシだけ残して、はっ」
イシュタルが振りかえる。
愛剣を握るたっちゃんとジークちゃんが、恐ろしい笑みを浮かべて立っている。
魔法の使い手であるロキがいなくなったせいか、たっちゃんとジークちゃんを拘束していたエロツタはふにゃふにゃになっていた。
「あたしの大福ぅ……」
「私のブラとショーツ、返してもらえますかぁ?」
「のわわわわわわわ!」
上空のヘラちゃんが着地。
愛剣マランドーズは持っていないが、指をべきべきと鳴らして鬼の形相を浮かべている。
「い~ち~ご~!」
イシュタルは口の端をひくつかせて瞳が震える。
「みみ、みなさーん、やっぱり正義の味方が三体一というのは」
たっちゃんが言う。
「日本じゃ正義の味方は五体一か三体一が」
天叢雲剣が振り下ろされる。
「常識じゃゴルァああああああああああああああああああああああ!」
「ひぇええええええええええええええええええええええええ!?」
◆
「どど、どうしたの二人とも!?」
リビングでエキドナは驚愕に目を見開き、あんぐりと口を開ける。
ロキはベランダに頭から突き刺さり失神中。
イシュタルは全裸の上にボロボロの姿で泣いている。
「うぅぅ、ワタクシが下着をつけていないと知るとジークがバルムンクでワタクシの縦ロールを斬ろうとぉ……」
「はい!? なに!? なんなの!? 何があったの!?」
◆
一方ジークちゃん達はリビングで、
「くっ、あの痴女めぇ~、よもやあやつもノーブラノーパンだったとは……」
「しょうがないじゃん、明日代わりの下着買うまであたしの貸してあげるからさぁ」
「いえ、貴女の下着は小さすぎます」
無表情できっぱりと断るジークちゃん。
たっちゃんは頬を膨らませて怒りを表す。
「そもそもイシュタルの下着を奪おうとしたのも彼女のでないとサイズが合わないと」
「あー、ジークちゃんお尻おっきいもんねぇ」
「なぁっ!?」
ジークちゃんは赤面しながらホットパンツ越しに自分のお尻を押さえる。
たっちゃんとジークちゃんがリビングで言い争う中、玄関の方からはヘラちゃんの嬉しそうな声が聞こえる。
「あっ、マスターおかえりなさい。え、お土産? わーいイチゴちゃんだぁ♪」
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