第2話 登場! 勇気と正義だ英雄ガールズ2
「んぁ?」
涙声の先には、蛇柄でタイトなロングスカートのドレスを着た美女が拳を震わせていた。
大きく開いた胸元から、セクシーな胸の谷間が丸見えだ。
左右には、長身の少女と小柄な少女がそれぞれこちらを見ている。
東京の真昼間に、パーティードレス姿というミスマッチにもほどがある痛い女性が気を取り直して、そして涙を腕で拭いながら表情をとりつくろう。
「フハハハハ。我が名はギリシャ神話にその名を轟かせし怪物の母。エキドナである! この八百万の神々が守りし龍の島、日本を滅ぼす前に貴様らをちゅまっっっ」
世界の時間が止まる事、五秒。
エキドナはたっちゃん達に背を向け、手に人という字を書いてからのみこんだ。
バサリっ
ドレスについている飾り布を翻して、エキドナは悪の女幹部風の声で、ちょっとわざとらしいぐらいに高らかに笑う。
「フハハハハ。我が名はギリシャ神話にその名を轟かせし怪物の母。エキドナである! この八百万の神々が守りし龍の島、日本を滅ぼす前に貴様らを血祭りにあげてやろう!」
ヘラちゃんが、あんぐりと口を開けた。
「さ、さっきのを無かった事にしようとしてるです。大人なのにズルいです」
「ジークちゃん、こいつ殴っていい?」
「もうちょっとだけ話を聞いてあげましょう」
ジークちゃんはたっちゃんに、温かい眼差しを向けた。
「くぅっ、バカにしてぇ! 貴様らをボコボコにしてそんな口をきけなく」
「もしもしー、あー警察ですかー?」
「なにやっとんじゃーい!」
「えー、普通するでしょ?」
たっちゃんは頬を膨らませてブーブー文句を言う。
「エキドナ様負けにゃいで!」
「がんばるもー」
二人の少女に励まされながら、エキドナはなんとか自分を保った。
「貴様らがあの眼鏡小僧が極秘に集めた英雄の生まれ変わりだという事は解っている! 日本を滅ぼす前にその防衛軍たる貴様らを倒す! 行け、キマイラ! ミノタウロス!」
「にゃーにゃにゃーん♪」
「が、がんばりす、も」
元気なほうがキマイラ。
小柄で頭に猫耳、背中にドラゴンのちっちゃな翼、手首にもこもこのシュシュをつけた少女だ。
やや目をふせがちに、もじもじしているのはミノタウロス。
背が高く、ジークちゃんよりも明らかに大きな胸は完全に超乳の域だった。
頭には牛のツノが上に伸びて、ツインテール頭なので髪が横から下に垂れている。
そんな彼女たちに、たっちゃんが一言。
「ねぇねぇ、あんたらってさぁ、モンスターなんだよね?」
「フハハハハ、そうだ、恐ろしいだろう! 泣いて許しを乞うても許さないぞ!」
「なんで人間の姿してんの?」
エキドナが、
「うっ……」
と気まずそうに目を逸らす。
顔の前で両手の人差し指をつんつん合わせた。
「だだ、だって怪物の姿だと目立つし五秒で青い服の人達がぁ、そのぉ……」
たっちゃん達三人の気持ちがシンクロした。
――あー、職質されたのか。
三人が温かい親鳥の眼差しでエキドナを見守った。
「その不愉快な目をやめろ! 私は名高いあのエキドナなんだぞ! ていうかヘラクレス!」
「え? わたし?」
ヘラちゃんが自分を指差す。
「生前はよくも私の可愛いケルベロスとオルトロスとヒュドラとラードーンとネメアのライオンとカルキノスおぉおおおお!」
涙を流しながら抗議するエキドナに、ヘラちゃんはたじたじだ。
「いや、わたし達って記憶はあるけど他人の記憶みたいっていうか」
「あー、なんか映画見た記憶と同じで実感はないんだよねぇ」
「我々は所詮生まれ変わりで本人ではありませんから」
たっちゃんたちのそっけない態度に、エキドナは拳を震わせて怒髪を突いた。
「く~~、二人とも、やっておしまい!」
「ドラゴンブレース♪」
キマイラの小さな口から、巨大な炎が放たれる。
たっちゃん達は慌てて左右に分かれてかわす。
だがアスファルトは黒く解けて異臭がたちこめる。
「ブル・アックスだも」
ミノタウロスが、超乳を大きく弾ませながら斧を振るう。
背中を逸らせて斧を上げるとスイカのようなバストが下にやわらかく垂れて、斧を下ろすと反動で上に大きく跳ね上がった。
アスファルトに叩きつけられた斧は、大地に巨大な亀裂を生んだ。
たっちゃんたちのもとまで伸びる地割れから衝撃でめくれたアスファルトが上に突き出して、たっちゃん達を串刺しにしようとする。
「わわ、危ない」
ちっちゃく悲鳴をあげるたっちゃん達。
エキドナは満足げに口角をあげて、めいっぱい背中を逸らして空へ笑い声を上げる。
「どうだ見たか、これぞ我が人外ガールズの力。はーはっはっはっ。やーいやーい、降参したって許さないぞー、これから貴様らをギッタンギッタンのメッタメタのボッコボコにして」
たっちゃんの頬が、愉悦に歪んでいた。
「へ?」
まぬけな顔をで口を開けるエキドナ。
たっちゃんは世界中の悪を煮詰めたような笑顔で両手を広げた。
「ついに来たわ! これよ! あたしはこれを待っていたのよ! これこそがあたしがずっと待ち望んでいた展開なのよー!」
魔王のような眼光と邪悪な笑みに、エキドナ達が恐怖して青ざめた。
「エエ、エキドナ様」
「なな、なんだか怖いも」
「おおお、落ち着きなさい、相手は英雄の生まれ変わりと言ってもただの小娘三人。恐るるに足りないわ」
エキドナは腰が引けすぎて、ほとんど、くの字になってお尻を後ろに突き出している。
「行くわよみんな! 前世の力を今ここに!」
「騎士として、私は戦おう!」
「OKです♪」
途端に、たっちゃん達の体から光の粒子が湧きあがり、右手に集まり形を成していく。
三人が、笑顔で右手を突き上げ叫ぶ。
「邪神殺しの剣! 天叢雲剣!」
「悪龍殺しの剣! バルムンク!」
「巨人殺しの剣! マランドーズ!」
たっちゃんの右手に、片刃の日本刀が、
ジークちゃんの右手に、両刃の西洋剣が、
ヘラちゃんの右手に、身の丈よりも巨大な大剣が握られている。
「「「ひえぇえええ!」」」
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