第5話 凄いぞ? 偉いぞ? 立派だぞ? 僕らの英雄ガールズ2
栄有図書館。
日曜日ということもあり、昼の図書館は利用客が多い。
と言っても利用者の年代は極端に偏っている。
ようするに高齢者か子供かの二択。
子供の保護者と思しき中年女性もいると言えば居るが、ただの付き添いだ。
もっとも、高齢者の方々は本を読んでいる人が少なくて、ただソファに座って寝ている人が多く見受けられる。
まぁ、つまりは老後のヒマつぶしに来ているだけだろう。
数少ない若者はおそらく学生。
パソコンの普及した現代では、調べ物はネットでするのが主流だ。
しかし、大学の教授はレポートにネットの情報を使うのを嫌がる。
だからレポートも無いのに若くて可愛いこの三人は、とっても目立つのである。
ましてうち二人は銀髪と金髪の白人少女。
目立たないわけがない。
今、英雄ガールズ三人は小さな丸テーブルの席に等間隔に座っているため、三人が互いに話しかけやすい席位置だ。
『ヤマトタケル神話』と書かれた本を読みながら、たっちゃんはテーブルにヒジをついたまま聞いた。
「ねぇ、そっちどう? あたしの方はだいたい合ってるよ」
「私も問題ありませんね。前世の記憶と同じ事が書いてあります」
ジークちゃんは『ジークフリート伝説』と書かれた本に目を通している。
北欧系のクール美女であるジークちゃんが玲瓏な瞳で本に視線を走らせると、深窓の令嬢というか、男心を貫かんばかりの魅力を放っている。
対して、小柄で可愛らしい体付きの少女、ヘラちゃんは難しい顔で眉間にしわをよせていた。
はたから見ると、まるで夏休みの宿題が解らない小学生か、中一女子だ。
「ん? どったのヘラちゃん?」
たっちゃんが、頭の両端でしばった長い髪をわっかにした、リングツインテールを揺らしながらヘラちゃんの顔を覗きこむ。
ジークちゃんもどうしたんだろうと覗きこむ。
「いや、わたしのほうもまちがった事が書いていないのですが……うぅ」
ヘラちゃんが開いている『ヘラクレスの冒険』という本のページには、全裸の男性石像の写真が掲載されている。
「わーお、ヘラちゃんだいたーん♪」
「た、たくましい……のですね」
たっちゃんとジークちゃんの頬が、ポッと染まる。
「うぅうぅううう、わたしの黒歴史がぁ……なんで歴史家はこう変なことばかり後世に残すのですかぁ~」
ヘラちゃんの目が恨めしそうに濁っていく。
たっちゃんがはにかみながら、
「これって若気の至り?」
ジークちゃんが視線を逸らしながら、
「そのようなご趣味が?」
「ち、が、い、ま、すっ。名誉の為に弁明致しますが、わたしは決してストリッパーでも露出狂でも見せたがりでもありません」
ヘラちゃんは周囲に配慮して、勢いよくまくしたてるが声のボリュームは抑えた。
「じゃあなんで全裸でハッスルしていたのさ?」
「古代ギリシャでは裸は名誉な事だったのですよ。一切の武器防具を用いず鍛え上げた己が肉体だけで敵と戦う、これぞギリシャの勇者。事実ギリシャで行われた初期のオリンピックは参加者全員全裸です」
「「え?」」
たっちゃんとジークちゃんの頭の中で、イマジネーションが膨らむ。
二人の紅潮した頬の赤身は耳まで広がり、口をもにょもにょさせた。
「あ、でも女性は未婚者しか見ちゃいけなくて既婚者女性がオリンピックを見ると死刑なのですよ」
「「罪、重ッ!?」」
「しぃー、なのですぅ!」
周囲からの視線に、たっちゃんとジークちゃんは慌てて口を押さえた。
「えーでもさぁヘラちゃん。ヘラちゃんのは事実だからまだいいよ、あたしなんて嘘書かれているんだよ?」
「へ?」
「む? たっちゃん、貴女は問題なかったのでは?」
「大筋はね、でもジークちゃんここ見てよ」
たっちゃんが指で示した文章には、
『ヤマトタケルは身長一丈(三メートル)の偉丈夫で』
「貴女も相当なものだったのですね」
「ちがうもん! あたしそんなんじゃないもん! だいいちそんなキモマッチョならどうやって女装でクマソを油断させて殺すのさ!」
ジークは冷たい表情で、
「え? それはクマソがそういう趣味の方だったのでは?」
「んなわけないでしょ! あたしは生前から光源氏もかすむプリチーな美少年だったんだから! 正直今とほとんど同じ姿でびっくりしたわよ、生まれ変わったのに見た目変わってないじゃん! って」
「あのぉ……」
「あん? いったいなによ! うぐっ!?」
たっちゃんが振り向く。
そこには図書館職員が、冷たい笑顔で立っていた。
京都美人に『ぶぶづけ食べますか?』と言われるような圧迫感があった。
「図書館では、静かにお願いしますね?」
「はは、はいぃ……」
ジークちゃんとヘラちゃんが溜息をついた。
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