第35話 ギリシャ神話、もうひとりの最強! アキレスちゃん登場!3


「天叢雲召喚!」


 たっちゃんはその手に一本の刀を握ると、景気よく素ぶりした。


「ほら行くわよ!」

「お望み通りぶっとばしてやんよ! ヘパイトス!」


 アキちゃんも武装を召喚。

 左手にラウンドシールド。

 右手にショートソード。

 攻防そろった武装がその神威の輝きを見せる。

 だが、


「待ちなさいアキちゃん」

「あんだよペルちゃん」

「悪いけれど、貴方はジークちゃんの相手をしてくれるかしら?」


 アキちゃんが首を傾げる。


「は? なんでだよ?」

「ジークフリートは貴方と同じ不死身の英雄。貴女のほうが相性はいいわ」


「ふーん、まぁ、なんとなくわかるよ。確かに、あんたが透明になっても近づいても、ジークちゃんは弱点の背中さえ守ればどこ攻撃されても意味ないんだ。ていうか地面に寝られたら無敵だしな。いいぜ、あいつはあたしの超スピードでサクっとやってやんよ」


「ありがと、物分かりがよくて好きよアキちゃん、マスターの次にだけど」

「わ、わざわざ言わなくていいよバカ……」


 頬を染めるアキちゃんの頭をなでて、ペルちゃんが前に進み出る。


「五大武装! 召喚!」


 ペルちゃんの全身が光り輝く。

 左手にはアテナからもらった鏡の楯。

 右手には不死殺しの鎌ハルペー。

 足にはヘルメスからもらった羽付きサンダルのタラリア。

 頭にはハーデスからもらった兜。

 腰には、キビシスの袋がぶら下がっている。


「行くわよたっちゃん。このスーパーエリートのペルセウス様の実力を」


 ペルちゃんが、軽く腰を落とした。


「見せてあげるわ!」


 垂直跳躍。

 空飛ぶサンダル、タラリアの力でペルちゃんは上空を自由に飛びまわって見下し笑う。


「うふふふ、いい眺めだわ。地を這う連中を見るのはいつも最高ね。それじゃあハーデスヘルムで姿を隠してからハルペーで、ん?」


 地上では、たっちゃんが意識を集中して何かをしようとしている。


「ヤマトタケル! 白鳥モード!」


 たっちゃんの背中に集まった光が、巨大な鳥の翼の形を成す。

 雄大な翼をはばたかせて、たっちゃんはペルちゃんと同じ視線まで上昇した。


「って、あんた空飛べたの!?」

「誰が飛べないって言った? これで五分と五分。空中戦としゃれこむわよ!」


 ペルちゃんは、負け惜しみのように唇を尖らせる。


「ふん、刀一本で何ができるっていうのよ! 私のこの最強武装があれば空中戦で後れを取ることなんて」

「天武雲剣! ヒヒラギの矛! 岡崎の矢! 召! 喚!」


 たっちゃんの両足首に、それぞれ天叢雲剣と天武雲剣がくくりつけられる。

 右腕甲にはボーガンが装備されて、両手で長大な矛を構える。


「なぁああああああああああああああああああああああああああ!?」

「どうよ、これがあたしの完全武装よ!」


 得意満面に言い放ち、たっちゃんは矛を構える。


「さぁ、行くわよペルちゃん!」


 たっちゃんが白翼をはばたかせ高速前進。

 斬撃をはらんだ蹴り技と長い槍の応酬でペルちゃんを追い詰める。

 ペルちゃんは鏡の楯とハルペーで捌くものの、かなり苦しそうだ。


「くっ、なんて武装数なの! こんな奴と、戦ったことないわ!」

「詳しい装備までは知らないけどね、あんたの伝説の概要は知っているわ」


 両足の刀と、手に握る長矛を操りながら語る。


「確かにその武装は凄いわ、ギリシャ神話最強を自称するのも解る。でもね、あんた、ゴルゴン倒したあと海の怪物倒して、それでどうしたの?」


 ペルちゃんは答えられず、黙って防御に徹する。

 たっちゃんは、勝利者の笑みを浮かべる。


「あたしはね、西方遠征と東方遠征で、日本中にあまねく荒ぶる邪神達すべてと、朝廷に逆らう全勢力と単騎で戦って滅ぼしたわ。西南は九州から東北は蝦夷まで、数えきれない神や英雄軍勢全てとガチンコして勝ったあたしと、たかだが道具の力で怪物二体倒しただけのあんたじゃ」


 たっちゃんが矛を上段に構え、一気に振り下ろす。


「キャリアが違うのよ!」


 ペルちゃんが弾き飛ばされて、悲鳴をあげた。


「まっ、怪物ならあたしも九頭龍と土蜘蛛っていう最強の怪物二体倒しているしね♪」

「くっ、ならこれでどうかしら!」


 ペルちゃんの姿が消えた。

 まさに透明人間。

 でもたっちゃんは慌てない。


「だから、あたしとあんたとじゃキャリアが違うのよ!」


 たっちゃんは右手のボーガンを構えると、翼を操作してその場で超高速回転しながら飛びまわる。


「岡崎の矢の矢弾は一万発! 喰らいなさい!」


 ボーガンを発射。

 三六〇度全方角に矢の雨を降らせた。

 何も無い空間から小さな悲鳴が聞こえて、霧が晴れるようにペルちゃんの姿が現れた。


「いただきぃいいいいい!」


 たっちゃんのドロップキック。

 しかも天叢雲と天武雲を装備しているので、ほとんど刺し攻撃だ。

 ペルちゃんは鏡の楯で受け止めるが、そのまま押し切られて地上へと落下する。


「なっ、この私が、私がぁ!」


 ずどーん!

 地面とサンドイッチにされて、ペルちゃんは目を回してしまった。


「よしっ! あたしの勝ちねぇ♪」


 たっちゃんが武装を解除して着地。

 背中の翼も消した。

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