第3話 信頼が崩れた日
私、藤林瑠璃には仲の良い幼馴染が三人いる。保育園で出会い、いつも四人で一緒にいた。男女二人づつで、私はいつの頃からか蓮夜に対して友情だけでなく、恋愛感情も抱くようになった。もう一人の女子も同じく蓮夜が好きなようだが、それでも変に拗らせることなく、私達は仲が良かった。この友情は永遠だと思っていた。あの日までは。
蓮夜が痴漢をして捕まった。
蓮夜が痴漢をしたなんて私達は信じなかった。だけど警察に連れて行かれたせいか、周りは誰も信じなかった。クラスの人気者だった蓮夜は一瞬で敵になってしまった。私達は味方でいようとしたが、三人で周りの同調圧力に抵抗するのはまだ中学二年生の私達には難しかった。
自分達が正しいと思っていても、常に多くの人達から否定され続ければ実は自分達が間違ってるんじゃないかと思ってしまう。思ってしまった。
ある日、先生に呼び出された蓮夜と一緒に帰ろうと三人で教室で待っていた。その日も周りから否定され、私達も参っていた。だからか
「…実は蓮夜って痴漢したんじゃない?」
「そんなわけないだろ」
「でも…みんなずっとそう言ってるし…」
「そう言われるとそんな気もしてくるな…」
「……」
「……」
「まぁまだ決まったわけじゃないしな」
「そうよね、蓮夜がやったって言うまでは信じてあげましょ」
「そうだね。…そろそろ蓮夜君が来るかもしれないからこの話はやめようよ」
過去に戻れるならあの頃の私達をぶん殴りたい。いくら精神的に参っていたからって蓮夜を疑ってしまった私達が許せない。
その日、下校時刻になり、見回りの先生に帰宅を促されるまで待っても蓮夜は現れなかった。
次の日、私は蓮夜になぜ昨日は先に帰ってしまったのか聞きに行った。
「蓮夜、昨日ずっと待ってたのになんで先に帰っちゃったのよ?」
私の声に反応してこちらを向いた蓮夜の表情を私は一生忘れないだろう。信じていた者に裏切られた怒り、悲しみに歪み、一呼吸おいて諦観、そして大きく深呼吸して感情を全て吐き出してしまったかのような無表情に変わった。蓮夜の表情が変化するのを見るのはその日が最後だった。
今まで向けてくれていた親しみを忘れたかのような無表情で
「もう俺に関わらなくていいぞ。お前達も俺が痴漢したと思ってんだろ?なら関わらないほうがお互いの為だ」
そう言われた私は動きが止まった。
聞かれていた!私達も疑ってしまったことを聞かれてしまった!
「違うの!ほんとにやったなんて思ってない!」
「別に怒ってないから否定しなくてもいいぞ。疑うのが当然だろ」
慌てて否定するも、あれだけやっていないと言っていたのに、今は疑って当然と言う蓮夜に困惑していたが次の言葉は無視出来なかった
「所詮俺達の関係も一つの事柄で崩れる程度のものだったんだろ」
パンッ!
今までの十年以上の関係を否定されてつい手が出てしまった。さらに怒りのままに
「あんたが悪いんでしょ!痴漢なんてするから!」
そう叫んでしまった。
静まり返った教室にハッと気を取り直して蓮夜を見るがそこには何の表情も浮かんでなかった。もしかしたら諦観の表情だったかもしれないが、何の表情も浮かべないことにイライラした私は謝ることもなく自分の席に戻った。
蓮夜が何の否定もしなかったことで痴漢したことを認めたと周りに思われ、私も気まずくて謝ることも出来ずに月日が流れていった。
そして三年に進級してすぐに蓮夜に痴漢されたとされていた女子生徒が捕まった。
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