第33話 何も思いつかねぇ
「席に着けー。それじゃあテストを返していくぞー」
そんな教師の言葉と共に返却されてくる答案用紙に書いてある点数を見て一喜一憂する生徒達。ガッツポーズを取る者、頭を抱える者、点数を見せ合う者達など古今東西テスト後のよくある一風景。
こういうのは中学生も高校生も変わらないんだなぁというのが高校生最初のテストを終えた感想である。これで全てのテストが返ってきた訳だが、そう悪くない結果だった。
「余裕そうだな蓮夜。そんなに点数が良かったのか?」
「まあそれなりに?」
得意科目は90点を超えているし、苦手科目も80点を超えている。学年トップを目指している訳ではないし充分だろう。勉強会の効果が出たのかな?
「西条はどうだったんだ?」
「俺もなかなか良かったぞ。これで小遣いを減らされずに済む」
「そいつは良かったな」
そういや中学時代に相川がテスト結果が散々で小遣い減らされると頭を抱えていたな。毎度のことだったので最終的に開き直ってたが。
「騒ぎたくなる気持ちは分かるがそろそろ静まれ。テストの解説をしていくぞ」
教師がそう言うと騒いでいた者達も静かになる。この科目は得意科目だし、間違えた所もすでに理解出来たから聞かなくていいや。おやすみなさい。
「今日で全てのテストが返ってきたが、高校最初のテストを終えた感想はどうだ?」
本日の授業が終わりHRの時間に担任教師がクラス全体に問いかけた。簡単だった、難しかった、科目が多い等反応は様々だ。
「高校に入って最初のテストだけあってまだ真剣に取り組んでいない者達もいるんじゃないか?そんな気持ちでいると受験生になってから焦ることになるぞ」
「まだ高校一年の一学期ですよ。気が早過ぎません?」
教師の言葉にあるクラスメイトがそう言葉を返す。俺もテスト勉強はそれなりに真面目にやったが、まだ受験のことなど考えていない。
「そんなことはない。一年生のうちに将来を見据えて勉強している者も珍しくない。確かに高校の三年間を勉強だけに費やすのも気が滅入るだろう。何もずっと勉強しろとは言わない。友人と遊んだり、部活をするのだって大事なことだ」
「結局どっちなんです?」
「友人達と交流を深めながらも将来を見据えておけよということだ。三年間なんてあっという間だぞ?俺としては遊ぶのも勉強するのも個人の自由だが、悔いのない三年間にして欲しい。説教臭くなったが心の隅にでも留めておいてくれ」
担任教師のありがたい話を聞いて将来について考える。
「…………」
何も思いつかねぇ。
今の俺は将来就きたい仕事や行きたい大学どころか高校を卒業したらどうするかすら思いつかん。
多くの学生のようにただなんとなく大学に行って、手当たり次第入社試験を受けて、内定を貰えた所に入社して、ただ惰性で生きるのだろうか?
こんな俺にも昔は夢があった。ガキの頃ならヒーロー、小学生の頃ならサッカー選手になりたいと夢を見ていたものだが、今の俺には将来の展望などありはしない。
無邪気に夢を見ていた子供は現実を知り大人になっていく。それを諦めと取るか成長と取るかは人それぞれだろうが、それでも夢を諦めずに突き進む人達は素直に尊敬する。
(俺にはもう出来そうにないな…)
今の俺には夢とは寝ながら見るものでしかないし、将来など空白でしかない。
(こんな俺にもやりたいことが見つかるのかねぇ?)
将来について真剣に考えるクラスメイト達を見ながら俺は他人事のようにそう思った。
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