第21話 ボールは友達だった(過去形)

「それでは本年度の球技大会の開催をここに宣言する」





 そう会長が宣言し、校庭に整列して生徒達が各々解散する。


「まだ五月なんですけど。こういうのって普通秋にやるんじゃねぇの?」


 そう愚痴を零す俺に西条が苦笑しながら説明してくれる。


「昔は十月くらいだったがその頃になると三年は受験が近いからな。サボる人はいるわピリピリしてるからか試合が殺し合いみたいな雰囲気になるわで散々だったらしい。怪我人も多かったらしいな」


「怖いわ。受験生は大変だな」


「十月に腕を骨折なんかしたら受験に響くからな。五月ならまだなんとかなる。多分」


「骨折する人が出るってどんだけヤバいんだ。修羅の国かよ」


「一応入学したばかりの一年が仲良くなれるようにって意味もあるらしいぞ」


「仲良くねぇ…」


 まだお互いのことがよく分かってないのにチームプレイが出来るものなのだろうか?まあこんなレクリエーションにマジになる奴は少ないか。


「ちなみに優勝したクラスには購買で戦争することなくパンが貰える優待券をくれるらしい」


「先に言えよ」


「やっぱ聞いてなかったのか。出る競技を決める時に先生が言ってたろ」


 くそっ!やる気ないから聞き流してた!分かってたらサッカーを選んでたのに!というか怪我人が出る理由はこれだろ。


「くっ、しょうがない。スラダンと黒子を読破済みの俺のテクをみせてやろう。左手は添えるだけ」


「蓮夜ならそこそこ上手いんだろうけどバスケは激戦区だぞ?メンバーが五人で済むからここに運動できる奴を固めといて勝ちを狙うクラスが多いらしい」


 マジかよ。確かにサッカーみたいに十一人もいると運動できない奴がそれなりに入ってきて勝てるか分からんからな。


「というかなんで蓮夜はバスケなんだよ。一緒にサッカー出来ると思ったのに」


「サッカーは散々やったからな。もう十分だ」


 中学時代に毎日のようにボールを追い続けたからな。ボールは友達だった。毎日蹴り飛ばしたけど。


 バイオレンスな友人関係だなと思いつつ体育館に向かう。○西先生、バスケがしたいです。







 体育館に向かって歩いていく蓮夜の背中を見つめる。球技大会の種目にサッカーがあるのを知った時はまた蓮夜がサッカーをするところが見れると思った。だが蓮夜はバスケを選んだ。


「そんなに昔のことを忘れたいの…?」


 去って行く背中にそう呟くが聞こえてないだろう。もし聞こえていたらどんな返事をするだろうか。


 入学式の日にサッカー部に入るのか聞いた時の蓮夜の態度を思い出す。興奮する私と違って淡々としていて面倒臭さそうにしていた。熱中していた頃と比べると雲泥の差だ。


 蓮夜にとっては忘れたい過去なのかもしれないが、私にとっては大事な過去だ。あの頃のようになりたいのに上手くいかない現実にイライラする。このイライラは試合バレーで発散させてもらおうそうしよう。










「負けた…」


 バスケの試合は全敗だった。他のクラスガチすぎん?運動神経いい奴ばっかだったろ。


 流石に現役バスケ部は出場できない(他の競技も同じ)が経験者は出場できる。だからって経験者多すぎだと思うの。


 他の競技に期待だなとちょうどやっていたバレーの試合を見る。藤林が物凄いスパイクを決めていた。親の仇かと思うくらい思いっきりボールを叩きつけていた。


「そんなに優待券が欲しいのか…」


 だとしたら全敗した手前申し訳ない。


 全敗したくせに優待券をもらうとか恥ずかしくないの?と思われるかもしれない。ハイエナだと笑うなら笑え。それでも俺は優待券が欲しいんだっ…!


 という訳で頑張れみんな!優待券の為に!


 バレーは大丈夫そうだから他の競技の様子でも見に行くかな。







 長いようで短かった球技大会もいよいよ大詰め。このサッカーの試合の勝敗で全体の優勝が決まる。


 なに?端折り過ぎ?うるせぇ!キング○リムゾンしたんだよ!


「頑張れよ西条、優待券の為に」


「素直に応援できんのか?」


「応援してるだけマシだろうが」


 もし優待券がかかってなかったらわざわざ応援しに来ないわ。なんなら朝からサボって帰るまである。


「素直に応援してあげたら?」


「あっ、藤林さん優勝おめでとうございます。肩でも揉みましょうか?」


 バレー組は優勝した。優勝の立役者の藤林に全力で媚びる。引かれそうだけど。


「えっ…、あっ…うん。じゃあお願いしようかな?」


「マジかよ」


 なんかお願いされた。お願いされたので藤林の後ろに回って肩に手を伸ばす。


「やっ、やっぱり無理!」


 触れようとしたら手を払われた。まあ男に触られるのは抵抗あるか。特に気にすることもなく藤林から距離を取る。


「あっ…ちがっ…今は汗かいてるから…触られるのが嫌って訳じゃ…」


 藤林がなんか言ってるが俺の意識は試合の方に向いていた。









 試合は中盤を過ぎたあたり。二点ビハインド。粘っているが常に押され気味だしこれは負けかな。


 もう帰ろうかなと思っているとホイッスルが鳴る。点でも入ったかと目を向けると人が倒れている。


「大丈夫か佐々木!」


 倒れた生徒に西条が駆け寄って行く。倒れたのはうちのクラスメイトらしい。


「てめぇワザとやったな!」


 別のクラスメイトが相手の生徒に詰め寄っている。なんだなんだ?


「見てなかったけど何があったんだ?」


 近くにいたクラスメイトに聞いてみる。


「相手がワザと佐々木にぶつかりに行ったように見えたな。佐々木はサッカー経験者だし抜けると勝ち目は無さそう」


 ほーん。相手の戦力を削るなら有効な手だな。たかが球技大会でそんなことする奴がいるとは。そんなに優待券が欲しいのかと自分のことを棚に上げて考えていると、何故か審判や教師と話していた西条に呼ばれた。


「蓮夜!佐々木の代わりに試合に出てくれ!」








 なんでやねん。

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