第20話 テレビの音しか聞こえない家

 最近の兄さんは家に帰ってくるのが遅いです。平日でも日付が変わる頃になって帰ってくることもあります。休みの日も午前中からどこかへ出掛けて行ってほとんど家にいません。


 どこへ行ってるのか聞いても「知り合いの家に行っている」としか言ってくれません。瑠璃さん達に聞いてもどこへ行ってるか分かりませんでした。少なくともクラスメイトと出掛けているわけではないようです。


 両親にそのことを言っても過去の事があるので強く言えないそうです。少なくとも悪い人達と付き合いだしたということではないみたいですが…。


「………」


 無言で食べる料理は酷く味気ないです。両親は相変わらず仕事が忙しいのか帰ってくるのは夜遅く、兄さんも帰ってきません。一人でご飯を食べるのには慣れていましたが、それでも兄さんは家にいました。今はこの家にいるのは私一人だけ。


 静けさに耐えられずつけたテレビから聞こえる音と私が立てる音しか聞こえない空間は私一人だけしかいないことを強く印象付けます。


 兄さんは家に居ても部屋にこもっていることが多いので視界的には普段と変わりません。だけど今はいつもより家の中が広く、不気味に感じます。


 家族四人揃って食事をしていた日々がひどく遠く感じます。反抗期を拗らせていたせいで家族を鬱陶しく感じていた私には、その日々がどれだけかけがいのないものか気付けませんでした。最後に家族四人揃って談笑しながら食事をした日はいつなのでしょうか?思い出せません。


 大事なものは失くしてから気付く。よく言われる言葉ですが今の私は身に染みて感じます。当時は疎ましく思っていた日々を今は取り戻したくてしょうがありません。


 昔は食事中の私の視界には兄さん、父さん、母さんの三人が入っていました。しかし今の私の視界には当時と同じ席に座っているのに誰も映りません。


「………」


 食事を食べ終え、椅子に座っている私の耳にはもうテレビの音しか聞こえません。


 私が心細いから家に居て欲しいと言えば兄さんは頷いてくれるでしょうか?兄さんのことだから「俺が家に居ても部屋にこもってるだけだから今までと同じじゃね?」とでも言いそうな気がします。



「寂しいよ…お兄ちゃん…」



 私の零した言葉は誰の耳にも届くことなく消えていきました。








 今日も私の言葉は誰にも届かない。

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