第22話 俺が成敗してやる!
「よし!佐々木の仇を討つぞ蓮夜!」
そう言って背中を叩いてくる西条。いや、だからなんでだよ。
「相手が悪辣なタックルをしてきたから選手交代を認めさせた。あいつらに目に物見せてやろうぜ!」
「だからなんで俺なんだよ。他のやる気のある奴にやらせろよ」
やる気ないんだけど?クラスメイトが怪我させられたと言っても別に怒りが湧くわけでもないし。
「そう言うなって!あいつらリードしてるくせにラフプレーまでしやがって!絶対許さん!」
「そうだぜ月読!あんな奴らに負けてたまるか!」
怒り心頭のクラスメイト達。俺との温度差が酷い。怒るのはいいが俺を巻き込まないでくれないかなあ。
内心そう思っていると西条に肩を掴まれる。
「なんだよ?」
「もし俺達が勝ったら俺達の分の優待券はくれてやる」
「俺に任せとけ」
ラフプレーをするなんてスポーツマンの風上に置けない奴らだ!俺が成敗してやる!
試合が再開し俺にボールが回ってくる。久しぶりの感触だ。懐かしく思いつつドリブルで相手の陣地に侵入する。
「ボールをよこせ!」
そう言って向かってくる相手をかわす。
「なっ!」
ブランクはあるがただ真っ直ぐ向かってくる奴をかわせないほど鈍ってはいない。
さらにもう一人かわすと相手も焦ってきたのか三人まとめてかかってきた。素人らしい動きだな。フリーになる奴がいるぞ?
そう思いつつゴール付近にいた西条にパスを出す。
「ナイスパス!」
西条は俺からのパスを的確にトラップし、そのままゴールを決めた。
「経験者のくせに大人げないって言われそう」
手加減したほうがいいか?(傲慢)
蓮夜が試合に出てすぐに一点が入った。怪我をした佐々木君には悪いけど蓮夜がまたサッカーをしているところが見れて嬉しい。
「蓮夜君がサッカーをしてるとこ久しぶりに見れたね」
「ええ」
自分の試合が終わって見に来ていた陽菜も嬉しそうだ。
グラウンドに目を向ければ蓮夜からのパスを受けたクラスメイトがゴールを決めていた。蓮夜は最初の時以外はほとんどドリブルをしていないが、的確にパスを出し、相手のドリブルを止めたりパスをカットしている。相手にも経験者がいるようだが試合の流れはうちのクラスに来ている。
そのまま試合は進み、間もなく試合が終わるところで怒りの表情を浮かべた相手が明らかにボールではなく蓮夜に向けてスライディングをしてきた。
「クソっ!お前のせいで!」
「危ない!」
思わず声が出てしまったが、蓮夜は少しボールを浮かしつつなんてことないように軽くかわしてしまった。
「なっ!」
相手が驚いているが蓮夜は見向きもせずミドルシュートを放つ。ボールはゴールに吸い込まれるように突き刺さり、試合終了のホイッスルが鳴った。
「ちょっと大人気なかったか?」
項垂れてる相手チームを見ながらふと零す。相手にも経験者がいるようだったが俺に対応できていなかった。
「流石だな蓮夜!ありがとよ!」
「すごいよ月読君!サッカー上手なんだね!」
「サッカー部に入らないの?」
クラスメイトがわらわら湧いてくるが素直に喜んでいいものだろうか?球技大会で経験者がでしゃばるなよ、空気読めって陰で言われてそう。
クラスメイトをあしらって教室に向かう。相手クラスに恨まれてそうだが、ラフプレーをしたお前らが悪い。優待券はうちのクラスのものだ。まあもうサッカーをすることはないから許してくれ。
「月読はいるか?」
閉会式が終わり、その後のホームルームも終わってすぐに上級生がクラスに乱入してきた。
「あいつです」
そう西条を指差して教室を出る。関わらないのが吉。
「待て待て蓮夜!月読はお前だろう⁉︎」
「ちっ」
西条がそう言って引き留めてきやがった。上級生のほうを見るとこちらをロックオンしている。
「なんで嘘をつく?」
「関わりたくないので」
「そう言うな。月読、サッカー部に入らないか?」
「入りません」
勧誘か…めんどくさっ。
「何故だ?あれだけ上手いなら即レギュラーだぞ?」
「もうサッカーに興味ないので」
これは本当。今更サッカーをやろうとは思わない。
「そう言わずに入ってくれないか?昔のことは知っているが冤罪だろう?俺達は気にしな…「先輩」」
勧誘を続けていた先輩を遮る。別に昔のことを気にしている訳ではないが、人が多い所で話されたくはない。
「…すまなかった。今日の所は引き下がるが興味があったらいつでも訪ねて来てくれ」
「ええ、機会があれば」
そう社交辞令を告げ今度こそ教室を後にする。最近行ってなかったし、喫茶店で読書でもしようかな。
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