第23話 ただそれだけのことだ
球技大会から数日が経った。戦争をしなくてもパンが手に入るので嬉しい限りである。
優待券が無くなった後が怖いなと思いつつ歩いているとこちらを見ながらヒソヒソ話している奴等がいる。
「ほらあいつ…」
「痴漢したって…」
(またか…)
球技大会の翌日から俺のことを噂している奴等が増えた。昔のことが広まっているらしい。
(クラスメイトか、相手チームの奴等かな?)
当時はそれなりに大きなニュースになったから知っている奴はいるだろう。ニュースに実名は出ていないがこの辺の人間なら俺のことを知っている奴はそれなりにいると思う。
(まあ実害がなければどうでもいいか…)
直接手を出してこなければ好きなだけ陰口でもなんでもたたけばいい。実害がなければ気にしない。最近は積極的に話しかけてくる人も多かったからな。これで少なくなるか?
別に急に距離を取り始めても恨みはしない。好意的な人間が一つのことで手の平を返すことを今の俺は知っている。
よく昨日の敵は今日の友という言葉を聞くが、逆もまた然り。昨日の友が今日の敵になることもありうるのだ。
なんとなく屋上に行き、パンを食べつつ空を見上げながら過去に想いを馳せる。子供の頃は毎日が楽しかった。家族がいて、幼馴染がいて、仲間がいる楽しかったあの日々。高校一年生にして昔はよかったとか言い出すのはヤバい奴である。だが実際に昔はよかったと思う。
何も知らず、毎日が希望に溢れ、輝いていたあの日々。だがそんな日々は永遠には続かない。俺は中学二年でそのことを知ったが、世の中にはもっと早くに気付く者もいるだろうし、逆にもっと遅くに気付く者もいるだろう。
世の中は自分の思う通りにはならない。子供はどこかでその事を知り、大抵の者は諦め、妥協し、やがて大人になっていく。自分の思い通りに生きていけるのはほんの一握り。俺はそうではなかった。
ただそれだけのことだ。
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